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出来(龍之介side)
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「……悪ィ。待たせたな」
一応は謝っておく。
周りの反応も、久しぶりなんだから仕方がないとばかりに、ひたすらニヤニヤと温かい。
いたたまれなさのあまり、背後の士郎が長いため息をつくのが聞こえてきた。
シャツの襟元を立て、必死に紅く染まった首筋や、先ほどつけてやった痕を隠そうとする。
その様がより一層、暴きたい欲をかき立てると、この男はまるでわかっていない。
振り返り、襲いかかりたい衝動をこらえて、克己に問うた。
「……で?」
克己とジェイは顔を見合わせるなり、ドヤ顔で親指を立ててきた。
「もう僕ら、プロに転向した方がいいかもね」
「文句ナシっしょ」
「ほら、アキラ君も、こっち向いて!」
椅子に座り、頑なにうつむいていたアキラが、あきらめたように顔を上げて、立ち上がる。
その瞬間、背後の士郎が息を呑むのが聞こえた。
二面性を浮き彫りにするアシンメトリーなカットは、右側の襟足を短く刈り込む傍で、左側は肩に届く長さにまで伸ばされている。
攻撃性とナイーブさを同時に併せ持つ個性的なヘアスタイルが、群を抜いて美しい顔立ちにミステリアスな影を添えていた。
メイクは目力を強調し、陰影をくっきり入れるだけのモノトーン調で、それが逆にアキラの意志の強さと儚げな影を、際立たせている。
衣装はかつて送別会でジェイが着ていた、黒バージョンの執事服のアレンジ版だ。
リボンを解き、胸元を大きく開け、硬派な服をあえて着崩しているのが、エロティックでソソる。
「……イイじゃねェか。それ、ウィッグだろーな?」
「切るなってお達しだったんで、仕方なく。本物切らしてもらえれば、もうちょいグレード上がるんすけどねー」
ジェイがホヤくが、そこはまぁ、仕方がない。
アレンジで弄れる程度ならいいが、あまりに個性的なヘアスタイルでは、裏の仕事の際、身元がバレる恐れがある。
「充分だろ。……つーか、人じゃねェみてェだな」
青、緑、グレーが微妙に入り混じった、個性的なカラコンを入れているせいか、恐ろしく綺麗な人形のようだ。
思わず指の背で頬に触れると、ちゃんと温かい。
アキラの目が、何か言いたげに揺れるのが見えた。
どうしたと問おうとした矢先、
「メイクが崩れるから、お触り禁止だってば!」
克己の尖った声が降ってきて、苦笑しながら、手を引いた。
「……ンじゃ、まァ、撮ってみっか」
克己が士郎にカメラを渡した。
受け取った士郎の表情が硬い。
アキラの突出した美しさに、気圧されたか。
動揺している恋人に、普通ならやさしい言葉の一つもかけてやるのだろうが、そんな生温い関係では到底満足できない自分がいた。
命を取り合うように愛し合いたいと、壊れた心をさらけ出した自分に、ついてくると決めたのは、他ならない士郎自身だ。
あえて口元に笑みを掃くと、アキラの肩に肘を乗せ、耳元に頬を寄せて、
「……似合ってンじゃねェか」
誘いかけるように甘く、ささやいた。
そのまま、視線で士郎を絡め取る。
蒼白な頬に、屈辱の朱が走った。
切り裂くようにキツく睨みつけられて、炎の宿る瞳に震えた。
今度こそ、腹の底から楽しくて笑った。
はち切れそうなほど熱く血がたぎる。
腕の中のアキラにではなく、離れた場所で孤高に立つ恋人の、踏みつけられてなおけして折れまいとする、その勇姿に。
やがて士郎は黙ってこちらに背を向けた。
カメラを構え、腕慣らしにシャッターを切る姿からは、受けた屈辱は必ずや返すという確かな意思が感じられた。
それでこそ自分の惚れた男だと、嬉しくなる。
「……いいのか?」
アキラがもの言いたげに、見つめてきた。
「……ンだよ、オレらはいつも、こんな感じだぜ?」
追い詰めた果てによけいな感情にかられ、力を発揮できないようなら、それまでだ。
即座に別の人間を探す。
その場合、二人で過ごす夜の時間は大幅に短縮されるか、最悪ゼロになる可能性さえあったが、それも仕方がないことだ。
互いに納得していると信じている。
「……妥協されたって、嬉しかねェだろ」
惚れた相手だからこそ、曖昧に許されるなど我慢がならない。
魂こど焼き尽くしたい……焼き尽くされたい。
負けたなら潔く散るだけだと背筋を伸ばし、孤高に立つ姿は、鮮やかなほど美しく胸に迫る。
「……姿形じゃねェよ」
アイツのああいうトコが、たまンねェんだ。
低く笑いながらアキラの肩を抱き寄せ、射撃場内部に設置した簡易スタジオに移動した。
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