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つき添い(士郎side)
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ダシ汁を入れた土鍋を火ににかける。
ネギを刻んでいても、味付けしていても。
濃密な夜の記憶が脳裏を過ぎり、いつの間にか手の動きが止まってしまう。
抱きしめる腕の強さや吐息の甘さ、奥を穿つ切ない熱までもがリアルに蘇り、何度も首を振っては、ついて回る甘い夜の記憶から必死に逃れようとした。
「士郎さん、首、真っ紅っすよ?」
何、朝からエロイことに考えてるんすか、とジェイが脇腹に肘を入れてくる。
「……っ、思い出してなどいないっ」
「ぶはっ、自分で思い出してんの暴露するとか、素直過ぎっしょ」
こらえきれないと言いたげに、ジェイが腹を抱えて笑い出す。
羞恥が一瞬にして、静かな怒りに変わった。
「……そうか、朝飯は抜きでいいんだな」
「えっ、うそっ!? めっちゃ、腹ペコっす!」
「なら遠慮せず、寮の食堂で食うといい」
「……っ、オレが悪かったっす! もう二度とからかったりしませんから! お代官様っ、会長様、士郎様っ。何とど、お慈悲を……!!」
オレの雑炊っ、と土下座する勢いで足元にすがる姿には、鬼気迫るものがあった。
黙って立っていれば国賓級の高貴な王子にも見えるのに、口を開いた途端、非常に残念な後輩である。
後先考えない短絡思考も、言うまでもなく大きなマイナスポイントだった。
「……わかったから、離れろ」
暑苦しいのは雑炊の湯気だけで充分だと、服をつかむジェイの腕を押しのけた。
正直、真っ直ぐ立っているのも、つらいのだ。
腰の奥が甘く痛んで、足元が揺らぎそうになるのを、必死にこらえている。
「……翡翠、ジェイを席につかせろ。邪魔でかなわない」
「……了解。ほら、行くよ」
「ううっ、オレの雑炊……っ」
絵的には、高飛車なヨークシャーテリアに引きずられていく涙目のコリーだ。
耳を垂らし、クゥンと切なげに鳴きながら、すがるように見つめてくる姿が、憐れを誘う。
「……わかったから、大人しく座って待っててくれ」
憎めないヤツだと密かに笑いを噛み殺すと、気を取り直して、鍋にヌメりを落とした白米を適量入れた。
一煮立ちさせ、火を止めてから、溶き卵を流し入れる。
「うおっ、いい匂い♪」
椅子の上で、待ちきれないジェイが小躍りを始めた。
そこまで喜ばれると、さすがに悪い気はしない。
「ジェイ、人数分の皿を出してくれ。克己達もそろそろ来るだろう」
「喜んで♪」
よそい終えたところで、
「……シロちゃん、はよ……」
達也に肩を抱かれた克己が、目をこすりながら姿を見せた。
頑張って起きようとはしているが、いかんせん半ば夢の中にいるかのように、まるで目が開いていない。
髪もボサボサで、覇気がないにも関わらず、気怠げな仕草のせいで、いつにも増して何やら妖しい色香を振りまいていた。
朝から傍迷惑な……、とため息をつかずにはいられない。
「……達也、いつも悪いな」
朝の克己はいつにも増して手がかかる。
達也が慣れてますから、と苦笑いを送ってきた。
「ほら、みーちゃん、座ろ?」
「……ん」
かいがいしく世話を焼く姿は、恋人というより、もはや母親に近いかもしれない。
自分が今、家事全般をソツなくこなせるのも、すべては幼いころからこの家事能力ゼロの克己の世話を焼き続けてきたがゆえだと言えた。
今や確実に自分と同じ道をたどろうとしている達也を見ると、ありがたいやら申し訳ないやら、手のかかる幼馴染をどうかよろしくと、深々と頭を下げたい衝動にかられるのだった。
「煌牙君に朝ごはん、持ってくんですよね? 後片づけは僕らに任せて、早く行ってあげてください。いつも本当に、ごちそうさまです」
達也がふわりとやわらかく微笑んだ。
こちらも思わず笑み崩れそうになる、これぞ癒し系の鏡だ。
冗談のように厚い底の見えないメガネを外せば、誰もがうらやむ正統派美少年のくせに、本人まるで自覚がなく、外見にも頓着がない。
克己だけを一途に思い、周りの幸せを心から望む心やさしい笑顔に、心が浄化されていく気分でうなずいた。
「……助かる」
落とさないよう、気合いを入れて残りの雑炊が入った土鍋を持ち上げようとした時だった。
横からサッと腕が伸びてきた。
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