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夏休みと小旅行④
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(葵語り)
バーベキュー場から少し外れると、緑の木陰に入り涼しくなった。
下ったところに、川がある筈だ。
俺はそこを目指して歩き始めた。
山本先輩の笑い声がここまで聞こえてくる。
あの人はめちゃくちゃ楽しそうで良かったな。
綺麗な空気を肺に吸い込み深呼吸をした。
連れてきてもらってよかった。
後で熊谷先生にお礼を言おうと思った。
緑を抜けると目的の川が見えた。
きゃっきゃっと子供がお父さんと遊んでいる光景が目に入る。
俺は川に足をつけて座り、ぼんやりとそれを眺めていた。
遠くの方で、ひぐらしの鳴く声が聞こえる。
やっと1人になれた。ここだと心臓もドキドキしないし、落ち着く。
「あーおーい、何してんの。」
突然、隣に熊谷先生が座って、俺の内心は飛び跳ねるくらい驚いていた。
「つ、つけてきたんですか?趣味が悪いですよ。」
「うん。フラってどっか行っちゃいそうで、心配だったから。」
「居なくなったりしませんよ。子供じゃあるまいし。」
いつもこの人は俺を子ども扱いする。
そして、自然の流れのように、するりと手を繋がれた。
指と指を交差してぎゅっと握る。
「これは、何もしないに含まれるから。」
「……………」
手を握られただけで、顔が熱くなった。
それを見られたくなくて、俺は顔を伏せる。
やっぱりおかしい。
「手は友達でも繋ぐよね。あれ、どうした?どっか具合悪い?」
「何でもないです。ほっといてください。」
覗き込まれると、さらに顔が下へ下へと向いていく。
「冷たいな。俺が葵のことを放っておくことができないって知っているくせに。」
「……………」
気を逸らすかのように足をばしゃばしゃ動かして、水を蹴った。
しばらく手を繋いだまま、沈黙が続いた。
「猪俣とはまだ会ってるんでしょ?」
「……………あの……と…」
顔を上げて答えようとしたら、手を口の前に出されて、言おうとしてたことを制された。
「ストップ、やっぱ言わなくていい。聞いたら嫉妬しちゃうから、いい。」
子供たちのはしゃぐ声が響く。
この人は、なんてストレートに言うのだろう。
まっすぐに気持ちを伝えるのだろう。
切なくなって、熊谷先生の肩に頭を乗せた。
「葵、これ以上近づいてくると、襲いたくなるからやめて。」
襲ってもいいよ。
俺……熊谷先生が気になってる。
隣に座っているだけで、嬉しくて、ドキドキして、胸がいっぱいになる。
もっと俺に構ってほしい、触れてほしい。
たぶん、この感情は恋と呼ぶのだろう。
俺なんかが好きになってもいいのかな。
好き、好き、熊谷先生が好き。
帰りは山本先輩が爆睡で、いびきをBGMに俺と熊谷先生は他愛のないことを話した。
また、何もしないに入るからと手を繋いだ。
理由をつけて俺に触れてくる熊谷先生が、嬉しかった。
好きって自覚したからか、すべてのことに照れくさい。
だけど、この想いは告げられない。
俺の中で猪俣先生の存在がまだ大きいから。
実を言うと、夏休み前から会うのを断っていた。
少し前から俺は熊谷先生が好きだったんだと思う。
だから猪俣先生に会うのを無意識に避けていたようだ。
弱い自分と、愛されたい自分と、黒い自分と、汚い自分、沢山の自分を区切りをつけて、前に進みたいと思った。
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