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好きになった理由【大野の場合】2
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(大野語り)
俺は、同期の中で一番パソコンに疎い。
本当に苦手で機械と相性が悪いから、データが飛んだり、いつまで経っても社内システムが使いこなせない落ちこぼれ新入社員だった。
パソコンだけに時間を使うことが許される訳もなく、新人として先輩と契約先を回らなければならなかった。毎日学ぶことが多くて、とにかく時間が足りなかった。
入社して半年経った頃、初めて新規の契約を取り付ける。何もかもが初めてで、あたふたしていた。緊張と嬉しさが入り交じったような、不思議な気持ちだ。
社内システムで申請を上げて承認されないと、資材も調達できないし、工事も手配できない。
先輩に聞きながら四苦八苦して申請を上げた。なんとか出来たと思ったその日の就業時間前に、なごみさんから内線電話がかかってきたのだ。
それが、初めて言葉を交わした時だった。
「調達部の和水です。大野さんですか?」
調達部の人が俺に何の用だろうと思った。物静かな落ち着いた声に冷たさを感じる。
「はい、大野ですが……」
聞けば、俺の入力方法が間違っていて、今日中に申請を上げないと資材の納期に間に合わないとのことだった。
「絶対に今日中に再度申請を上げてください。」
かなり強い口調で言われた。電話だと余計にキツく感じるもので、俺は少し落ち込んが、そうもしてられない。
マニュアルを引っ張り出して読みながらパソコンと睨めっこを始めた。控えめに言っても全然わからない。いつも助けてくれる先輩も直帰のため不在だった。時刻が20時を過ぎた頃、なんと、なごみさんが俺のフロアに現れたのだ。
「君が大野君?帰ってなくてよかった。申請が上がってこないから、居なくなったかと思って見に来たんだ。どう?進んでる?」
事務所にはちらほらとしか人がおらず、その中で新人は俺しかいなかったので、探しやすかっただろう。
なごみさんは水色の半袖シャツを着ていた。シャツから見える腕が細くて華奢な人だと思ったのを覚えている。
首からぶら下げた社員証には『和水 洋一』と記してあった。そしてパソコン研修の人だということに、今更ながら気付く。
「実は……やり方が分かりません。」
この人に隠すことは無駄だと悟った俺は、項垂れながら正直に説明した。なごみさんの顔を見上げると、研修したでしょ、とか、半年間何やってたんだ、とか、色々言いたそうな表情が手に取るように分かる。
怒られるかな……できないもんはしょうがねぇ。
「そうか……んーと、じゃあ座って。最初からやろう。」
何も言わず一息ついて、なごみさんは隣に座ってレクチャーを始めた。
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