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なごみと過去9
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(なごみ語り)
秋が過ぎ、季節は冬に移った。
僕達は治療院で会って話すだけの仲に変わりはなかった。諒の家へもあれから行っていない。
片思いは慣れているので気にしてない。報われない恋もいつもだから、僕には何ともない。ただ、僕が行動に移したら、もしかしたら変わったかもしれないと感慨に浸ることはあった。せめて告白できたらと臆病な自分に涙した。
年が明けたある寒い日、何十年ぶりと言われる大雪が降った。そこそこ都会の町は交通機関がたちまち麻痺してしまう。綿のような雪がしんしんと降り積もり、町はあっという間に白一色になった。
そんななか、僕は諒に会うためだけに治療院へ向かう。人気のない町を1人で歩を進めた。雪は全ての音を吸収し、世界には自分1人しかいないんじゃないかと錯覚を覚えるくらい静かだった。今日は来ないかもしれないけど、彼に一目会いたかった。何にもせず悶々と家にいるより、よっぽど良かったのだ。
雪用の靴なんか持っていないので、たちまち靴下までぐっしょりと濡れる。足の感覚が無くなり、あまりの冷たさに渉くんが小さな悲鳴を上げた。
「ひゃー、洋ちゃん、靴下と靴をちゃんと乾かしてから帰るんだよ。しばらくここにいていいから、しっかり温まってね。」
「うん。渉君、ありがとう。」
「僕は仕事に戻るから、ゆっくりしてって。」
びしょびしょの僕に渉君がヒーターの前で靴下と靴を干してくれた。淹れてもらった甘いココアを飲みながら、乾くまでしばらく待合室で待つ。渉君はこの頃から面倒見が良く、常に僕を心配してくれた。荒天でも患者さんが絶えない彼の腕は確かだと思う。
暫く経ち、諦めが付いたので帰ろうかと思っていた時だった。からからと入口の戸が開く音がした。
振り向くと雪にまみれた諒が立っている。肩にも頭にも雪が積もっており、黒いモッズコートが雪のせいで半分白くなっていた。
雪だるまみたい……
鼻も赤くて、大きな無愛想雪だるまだ。
「はははっ、諒さん、雪すごい。」
「あ……傘忘れて……」
会えた嬉しさと、雪だるま諒の可笑しさが混ざりあいツボにはまる。しばらく腹を抱えて笑っていた。
諒は中に入らず、こちらを見たまま突っ立っていた。
付き合ってから、雪の日のなごみの笑顔に見惚れたんだよと諒が教えてくれた。本当に可愛かったと何度も腕の中で聞いた。
この日を境に僕と諒の関係が変わっていく。
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