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過去(会長)
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「日月の話を聞いて、お前なら信じてもいいかもしれないって思えたのに…………お前は自分に嘘をついてるだろ」
「……わかっちゃうもんだね」
「……でも、日月に言ったことは本心なんだろ?
だから…………オレも信じることにした……」
「あ、うん……ありがとう」
「………………なぁ、オレの話、聞いてくれないか」
「………………え?」
「嫌ならいい。
ただ…………人に話すと楽になるって如月に言われたから……」
港醍くんか。
やっぱ優しいんだね。
目が澄んでるもん。
「僕でいいなら聞くよ」
そう言えば、会長はホッとしたように、だけどまだ少し迷ってるかのように俯いた。
「オレは…………産まれて間もない頃、親に捨てられたんだ。
孤児院の前に捨てられていた。
親の顔も名前も何もわからないけど、ただひとつだけ、オレと一緒に1枚の紙が置いてあって、そこには『ルイ』って書かれていたらしい。
名前はつけてくれたんだ」
……………………
「名前だけでも親が残してくれたものがあるってことが嬉しかった。
その孤児院はいい所で、院長も皆優しかった。
だから、親が居なくても寂しくなかったんだ」
「………………」
「5歳になった頃、ある夫婦がそこを訪ねて来て、養子が欲しかったらしい。
そこで、その人達にオレは引き取られた。
それが今の両親なんだが、二人はなかなか子どもが出来なくて、跡取りが欲しいためにオレを養子にしたんだ。
引き取られてからは、所謂英才教育を受けさせられて、出来が悪いと暴力を振るわれたり、飯を食わせてもらえなかったりした。
それでもなんとか頑張っていたんだ。
…………いつか、認めてもらえるように。
だけど、オレが8歳の時に、二人に子供ができた。
ずっと待ち望んでいた子どもが。
それからはオレはもう要らない子だ。
本当の子どもの方が愛おしいんだろうし、跡取りにするにしてもソイツになるに決まってる。
二人は世間体を気にする人で、捨てられることはなかったけど、その家に居場所はなくなった。
飯ももらえたりもらえなかったり、時には八つ当たりされたり。
挙句オレの顔は見たくないから、と中等部から全寮制のこの学園に入れられた。
それで今に至る。
…………オレは何度もあの家族を憎んだし、本当の両親を恨んだ。
それで、ひねくれて中等部は荒れまくったんだ。
授業はサボるし、喧嘩はするし、成績も悪かった。
……ある時ふと、死んでしまおうか、なんて考えが浮かんで、屋上に登ったんだ。
その時、アイツが……日月がオレを止めてくれた。
必死になってオレが死なないようにって、説得してきたんだ。
だから、アイツには恩があるし、感謝してる。
でも、オレはアイツの苦痛に気がつかなかった。
今の今まで何をしてきたんだ、って話だよな」
会長は自虐気味に顔を歪めた。
そして、「終わりだ」と呟いた。
「別にヤマもオチもない、ただのオレの過去の話だ。
すぐに忘れてくれて構わない。
ただ…………誰かに話すと、こんなに気持ちに整理がつくんだな……」
会長はそう言って、少しスッキリしたような顔をして僕を一瞥した。
「忘れないよ。
会長が辛かったっていうこと、話してくれてありがとう。
…………僕はね、誰かを助けたいんだ。
だから、会長もこれから何かあったらすぐに頼って欲しい」
ね?と首をかしげると、会長はわかった、といって軽く頷いた。
「お前の話は聞かせてくれないのか?」
「僕の話?
うーん……兄さんの話でもする?
あの人ホスト演じてるけど、本当はヘタレでブラコンで嫉妬深いんだ。
あんまり嫌わないであげてね?」
「そうなのか?
アイツ……いや、あの人、いつも偉そうにして……」
「まぁ、ウザかったらウザイって言っていいよ」
そう言って笑って見せれば、会長も微かに笑った。
それは、綺麗で、暖かくて、優しい笑顔で…………
君によく似ていたよ。
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