アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5
-
父が緊縛師となったのは、母が死んでからだ。確か俺が中学2年ぐらいの頃。それまでは普通のサラリーマンで、普通のお父さんで、普通のおじさんだった。
父も、母を亡くしたストレスの捌け口をどこかに求めたのだろうか。何故、脱サラして緊縛師になったのかは聞いたことがないが、今やフェティッシュの世界ではかなりの地位を築いており、世界中のありとあらゆるフェティッシュイベントに出向いていて忙しそうだ。
俺が高校生のとき、父は俺の想いに気づいた。
『おまえ、何か苦しんでいるだろう』
龍弥の名前は言わなかったが、恐らく父は分かっていた。
『一瞬でも、忘れさせてやろうか』
そこにいたのは、見慣れた父ではなく、一人の男だった。ただただ立ち尽くす俺の服を剥ぎとると、俺の全身に舌を這わせてきた。父親と性的なことをすることに、不思議と嫌悪感はなかった。俺は赤ん坊みたいにわんわん泣きじゃくりながら、父に抱かれた。
父は最初、写真家になった、とだけ言ったが、父とそういう関係になってから、俺は父の本当の仕事が何であるかを知った。高校を卒業したら俺のモデルになれ、と言われて、俺は大学も専門学校も行かず、バイトさえもせず、朝から晩まで父に抱かれ、縛られ、写真を撮られた。
半年後、父が個展を開催すると、瞬く間に俺も一躍有名人になった。親子というのも、退廃的でその手の嗜好の人の心を擽るのに拍車をかけたのだろう。そのうち俺は他のカメラマンやアーティストとも仕事をするようになっていったわけだが......
弟は、父の仕事を知らなかったはずだ。少なくとも俺が高校生の間、弟が中学生の頃までは、俺も父も、龍弥の前で仕事の話は一切しなかった。
俺を撮ったあの個展以降、世界各地を飛び回るようになったり、時には一般的に有名なアーティスト写真を撮るようになってからは父もあまり隠さなくなってきたから、今時分は知っているだろうと思う。
俺の仕事についても、何度か父と打ち合わせをしているときに鉢合わせしたことがあるから、なんとなくは知っているかもしれないが......フェティッシュイベントなんて、常人には想像もつかないだろうし、ましてや存在も知らない人が多数な世界だから、弟がどこまで理解しているかはわからない。
フェティッシュというものが、完全に悪だとは思わない。人間の性的嗜好なんて多種多様で当たり前だし、それを人がとやかくいうものではないと思う。
けれど、アンダーグラウンドなものではあるから、表立って大声で胸張って言えるものでも、もちろんない。
だから、健全な弟は、健全な相手と真っ当なセックスをするべきであって、俺や父のいる世界とは、関わるべきではないと思っている。
俺が近づいたら、汚れてしまうような気がする。
俺の大切な龍弥を、他でもない自分自身が汚してしまうのが、恐ろしくて、最近ではずっと避けていた。
「はぁ......夕飯、どうしようかな......」
スタジオに向かう電車の中で、これから緊縛写真を撮るとは思えない内容のため息が出て、思わず一人で苦笑してしまった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 652