アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
17
-
迂闊だった。
キッチンを出たところで、玄関から入ってきた龍弥と出くわしてしまった。
「ただいま」
「お、かえり」
顔を見ただけで胸が詰まって、思わず声が上ずってしまった。
「兄さん、どうかした?あ、めちゃくちゃ濡れてる?」
龍弥の手が、俺の服の濡れた部分を触れた。その時、指先が僅かながら、先端を掠めた。
「んっ......」
「ご、ごめん!え、火傷?お湯かかった?」
「ちが、違うから、大丈夫だから、......っ」
ドキドキする。顔を見ただけで、どうしようもなく心が跳ねる。好きで、好きで、堪らない。
でも、好きだから、誰よりも大切だから、絶対に汚したくない。
泣きそうだった。足が震えて、その場から動けない。
「兄さん......」
すっと伸ばされた手が、頬に触れた。
「ぁ、や......っ」
その時、リビングのドアが開いた。
「おい、出汁はどこだったっ......っと。雅」
父はすぐに俺の様子に気づいて、龍弥から引き離すように俺に腕を回し、そのまま階段へと促した。
「おい龍弥、鍋の火だけ切っといてくれ」
「あ、うん......兄さん、大丈夫?」
「あー、まぁ、ちょっと疲れてるだけだ。寝かせてくるよ」
涙が、滝のように流れた。自分の意思に反してとめどなく流れ、止まらなかった。
階段を上がると、俺の部屋ではなく父の寝室に連れていかれた。ベッドに座らされると、床に跪いた父が、顔中にキスをしてきた。
「やれやれ、罪なやつだな、おまえの弟は」
「ひっ......ぅ......」
「少し休め」
「龍弥の、夕飯......」
「子供の飯くらい親の俺に任せろ。......雅」
「なに」
「......ごめんな、全部押し付けて」
「......」
「小さいうちから母さんの代わりをさせて、おまけに俺の道連れにして」
「......」
「これでも心配してるんだ。......おまえはもう少し自分を大切にしろ」
自分を大切にって、どうすればいいのだろう。
「あー、で、出汁はどこだったっけ」
「乾物入れの引き出しの、手前の方」
「了解」
龍弥が幸せであること、俺には、それが全てだった。
龍弥の幸せのためならば、この身なんてひとつも惜しくないくらい、ただ、ただ、龍弥を愛してる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
17 / 652