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「兄さん、待って」
声をかけても、兄は何も言わず、目も合わせてくれなかった。
「どこか行くの?......仕事?」
「出ていく、から」
俯いたまま、兄は答えた。
「え、どういうこと」
「父さんには言ってある。部屋が見つかったらすぐに荷物全部運ぶから」
じゃあ、と言って階段へ向かう兄の腕を掴んで無理やりこちらを向かせれば、それでも顔を背けて目を合わせない姿に苛立って、無理やり部屋に引きずり込んだ。
「......なに」
「なんで......突然、出てくとか言うんだよ」
兄はまた俯き、口を閉ざした。
「ねぇ」
笑ってよ。昔みたいに、優しい兄さんでいてよ。
「セックスしようよ」
俺は、何を言ってるのだろう。
「男だったら誰とでもするんでしょ?っつーか、父さんともしてるなら、俺ともできるでしょ?」
兄さんが、恐ろしいものでも見たかのような顔で、声にならない唇を戦慄かせていた。
そんな顔しないで。俺だけの、優しい兄さんでいて。
「や......っ!」
無理矢理ベッドに押し倒せば、抵抗して振り上げた兄の手が俺の頬を打った。
「ご、ごめ......」
「なんで、俺だけムリ?」
「......龍弥は......」
「なんだよ」
「龍弥だけは、汚したくない......っ」
兄の目から、透明な雫が溢れた。
意味がわからない。
「キスしたくせに」
「......っ」
「昔の兄さんはどこにいったんだよ!綺麗で、優しくて、俺の自慢だったのに......っ、お前、誰だよ......俺の兄さん返せよ......」
目の前にいるのは、紛れもなく俺の兄だ。この人ほど綺麗な人なんていないのだから。そんなこと、わかってる。わかってるけど、止まらない。
「出てけよ!このクソビッチ......!二度と顔も見たくねぇ!!」
ヒッ、と短く息を飲む音が聞こえた。腕を掴んで今度はベッドから引きずり下ろす。見た目以上に軽すぎた兄は、床の上に転げ落ちた。その衝動で口の端を切ったのか、ほんの少し赤い血が滲み、白い肌とのコントラストに思わずぞくりとしてしまう。
不服に笑えばいい。昨日みたいにエロい顔で、ガキみたいにイライラを抑えられない俺を小バカにでもしてみればいい。
けれど、ゆるりと立ち上がった兄は、
「ごめんね」
と、それだけ言うと、部屋を出ていった。
その表情は、俺のよく知る優しい兄の顔で、俺が呆然としている間に、玄関の閉まる音がした。
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