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「はー、なんだってホテルのスウィートルームでおまえと対峙しなければならないんだ」
「えーっと......スンマセン」
ここで、雅に連れてこられた、と言い訳をしても意味はないだろう。俺はボリボリ頭を掻いて視線をさ迷わせた。蓬莱さんはそれ以上何も喋らず、ずっとグラスを傾けている。
蓬莱さんは金持ちだ。緊縛師が儲かる仕事な訳ではもちろんない。蓬莱さんは独身だし、蓬莱さんくらいの地位ともなれば、優雅に暮らしていけるだけの稼ぎはあるだろうが、そんなものを差し引いてもとんでもない金持ちである。直接聞いたわけではないが、父親がとんでもない資産家で、親が亡くなってから他に兄弟も親戚もいなかった蓬莱さんが全ての資産を受け取ったとか。その額は一生遊んで暮らせるほどとの噂だが、蓬莱さんは若い時から緊縛師として働いていた。
「蓬莱さんって、なんで緊縛師してるんすか?」
疑問が口をついて出てしまっていた。声に出してしまった手前、蓬莱さんの方を向き直ったら、ニヤリと意地悪そうに笑って言った。
「暇潰し」
......聞いた俺が馬鹿だった。
「弱い奴を虐めるのって楽しいだろ?だからって警察の世話にはなりたくないし。でも世の中には虐められたい人種というのがいてな、そいつらを堂々と虐められる世界があるというのを知って、どっぷり嵌まっていったのさ」
雅はよく、蓬莱さんはすごく優しい部類の人だと言うけど、やっぱり最低の極悪人だ。この世界に足を踏み入れてなお、ガチのSMは理解できなかった。ちょっと拘束するような軽いSMゴッコならセックスを盛り上げるエッセンスにもなり得るが、蹴られたいとかションベン掛けられたいとか、男だと股間を思いきり踏まれたいとか、理解できないというか理解したくもない。蓬莱さんは今でこそ緊縛だけしかしていないが、その昔はそういうガチのSMプレイもしていたというのは、どうやら本当らしい。
「まあそんな俺も歳を取ってだいぶ丸くなったけど......30年以上この世界にいて、あんなに特別な子と出会うとは思わなかったな」
ふいに蓬莱さんの表情が、まるで恋をしているかのように色っぽくなって、バスルームの方を向いた。
「彼の魅力は毒々しすぎるほどだな。こんなオジサンまで魅了するんだから、おまえ、いつかきっと死ぬだろうよ......あの毒に当てられて」
雅の魅力は恐ろしい。蓬莱さんさえ、本気で雅に惚れているのだと、今確信した。蓬莱さんが雅に捕まってしまったのなら、雅は違うと言っていたけれど、たとえ父親だとしても東雲さんもやはり雅自身に惚れているのではないかと、そう思えた。
どんな男をも誑し込む美しすぎる花には、きっと恐ろしい毒がある。
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