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気づくこと
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そのまま何も反応できずに動けないでいると、
秋の両手が僕の肩を包み強制的に顔を向けられた。
それが突然すぎて、抵抗ひとつできなかった。
「なづな…それ…」
そして、一番に目に入ったのは
ショックを受けたような秋の顔だった。
やめて、見ないで…
そんな顔しないで…
…そうだ、誤魔化さなきゃ。
そうすれば、元の笑顔の秋に戻ってくれるよね?
いや、もうそれしかない。
「…これは、転んで岩にぶつけたの」
これでいい、こういう事にすれば。
…なのに、安心させようとして言ったはずが、
秋を見るも表情は変わらないまま。違うんだ、
僕はこんな顔をして欲しかったんじゃない。
なんで、何で僕が怪我しただけなのに、
まるで自分の身に起こったことみたいに
衝撃を受けるのさ…
さっきから変わらない秋の表情を見て
胸がぎゅっと痛む。何だろう、これ…辛い。
「なづな、話して…くれないかな」
そっか、秋は分かっている。
僕が嘘を付いていることが。
いっそこの嘘が通じて、笑い話として飛ばして
欲しかった。でもこれじゃもう、逃げ道がない
じゃないか…
秋はまだ、言葉を続ける。
「何かあるんじゃないかってのは前から
感じてたんだ。それなら、なづなから
言ってくれるまで待とうって決めてた。
でも…こんなことされてからじゃ遅いよ…!」
泣きそうな顔。僕は今、どんな顔をしてるだろう。
肩に置かれたままの手が、僕の頬にそっと触れた。
あまりに優しく触れるから、痣の痛みは感じない。
ごめん、ごめんね…
本当に言いたくないんだ。
事実を言ったところで、秋を巻き込みたくない。
僕達は性格から見た目まで何もかもが違うけれど、
どちらも同じ犬子。だからこそ、もしかしたら秋も
僕と同じようなことをされるかもしれない。
それが…凄く怖い。
自分が暴力を受けるよりも、ずっと。
秋が危殆に瀕するかもしれないことを、
軽々と伝えられる訳なんて無いじゃないか。
…もしかしたら、秋も今こんな気持ちだったのかな。
"自分より相手"みたいな、そんな考え。
「お願いだよ、俺を頼ってくれっ…」
普段とかけ離れた真剣な眼差しが、
僕に思いっきりと突き刺さり目が離せなくなる。
─僕は…
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