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赤い四角の上に彼を立たせる。
天井から吊り下がる蛇が彼の首に巻きついているように見えた。
「相楽さん、...ありがとう」
「———喋るんじゃない」
彼の表情をもう見ることは叶わないが、でも穏やかに笑っていてくれと願うばかりだ。
「俺みたいな死刑囚の話を真摯に聞いてくれて、こんな俺を1人の人間として見てくれた。相楽さんの周りの刑務官さん達はみんなそうだ。だから俺、相楽さん達に送ってもらえて、嬉しいんです」
その健気な声の主を腕の中に収めることは、もう規則も時間も許してはくれない。だからせめても、彼の手を握った。
やはりその手は少し低めの体温を持っていた。
もうじき、この温もりは無くなるのだ。
彼も分かっている。
「…“今度”、俺のこと見つけてくれますか?」
喋るな、と刑務官である俺は2047番のこの行動を制止しなければいけないのだろう。
彼の魂が心が、少しのかけらだけでも救われてくれるのなら。
死神に徹するべき今でも、自分は人間として彼に向き合うべきなのだと、身体の内側が叫んでいた。
「……酒を———、酒を飲もう」
———幸せになっていたら。お前が得られなかった分の、それ以上の幸せに満たされていたのなら美味い酒を奢ってやる。
そう言って俺は部屋の隅に素早く体を寄せた。
「…またな、八田 和司」
「さような、———」
言葉半ば、彼の姿は視界から消えた。
赤い四角は音を立て、その大きな口を開けた。
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