アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
13
-
八田の刑が執行されてから、18年が経った。
世間から一家殺害の記憶など消え失せた今も、俺の中には消えずに染み付いていた。
相も変わらず、秘密の話は心の奥に仕舞ったままだ。
———それが約束だからだと、相楽は言う。
母校である刑務官警察学校を背に、自分の車への歩き出した。
対向車線を走る車と寂しげに立つ街灯が時々、俺を照らす。
流れるラジオは昔に流行った洋楽を流していた。
夜になりかけの夕闇。
ふと、車の外に視線を向ける。
信号待ちで待つ学生服を着た少年たちが立っていた。
部活帰りだろうか、よくある光景に相楽は頬を少し緩めた。
その中の一人、手前の少年たちに隠れて此方からは見えない、一人の少年。
どうしてだか、彼から目が離せなかった。
磁力のように引き寄せあった視線が、絡む。
目があった瞬間、少年は驚きに顔を歪めて、その目から大粒の涙を溢す。
———あの少年は、『彼』だ。
突然泣き出した彼を心配する周りの少年たちに、囲まれて彼の姿はすぐに見えなくなった。
直後の後ろからのクラクションに、相楽は車を急発進させる。
彼だと分かったのと同時に、この場を過ぎたらもう会わないのだとも予感していた。
ここで、彼と俺の交錯は終わりだ。
彼は微動だにしなかった。
ただ、涙が夕日に反射して煌めいていた。
幼く、凛々しく、真っ直ぐで、以前と何も変わらない姿だった。
———が走らせるうちにそれも見えなくなる。
律儀なところは変わっていないんだな、と笑うと意に反して視界が涙で歪む。
これで良い。
これで良いんだ。
幸せな彼の人生に、『俺』は必要ない。
これ以上に嬉しいことなんてないのだから。
——————…。
ずっと触らなかった酒蔵の棚は埃を被っていたけれど、手で払い除ければ、そこには綺麗なままのボトルが陳列していた。
「———あー…俺も大概、律儀だな」
その奥にはのっそり横たわる一本のボトル、そいつに貼られたもう今は古い雑誌の裏紙には、走り書きされ綺麗とは言い難い文字が “ 八田 和司の酒 ” 、と誇らしげに並んでいた。
相楽は小気味の良い音を立てて、ボトルを開けた。
報われた自分と彼の18年に、静かに祝杯を挙げた。
ーendー
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
13 / 13