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「え、支払いは済んでるって……なんで?」
清算の為にレジへと向かったはずの幸がすぐ帰って来て、集めた金をみんなに返していく。その複雑そうな顔に訊ねると、幸は困ったように小さく笑った。
「なんかな、牛島さんが全部払って帰ったって。あ、これ釣りやからウサマルから返しといて。あと礼も言っといてな」
そう言った幸の手には千円札が数枚と小銭が少し。受け取ったそれをしまった財布がすごく重たく感じる。
みんながリカちゃんを褒めていても、俺だけは楽しい気持ちになれない。
俺に強引に帰らされたリカちゃんが、どんな気持ちで全部支払って、どんなことを思いながら帰ったのか。それを考えると、ほとんど飲んでいないはずなのに頭が痛くなった。
初めから二次会なんて行くつもりがなかった俺は、みんなの中心にいる幸の腕を掴む。
俺を見た幸が茶色い目を瞬かせた。
「ウサマルどしたん?」
「……幸。俺、幸の家に帰りたい」
「え?」
主催者の幸が抜けるなんておかしいってわかってるのに、俺の口は勝手に帰りたいと言っていた。
リカちゃんを褒めるやつらとは一緒に居たくないけれど、リカちゃんの待っている家にも帰りたくない。どんな顔して帰ればいいのかがならなかった。
リカちゃんを試していたなんて言って、これ以上リカちゃんを怒らせることが怖くて今日は戻れない。
「家、帰りたないの?でも彼女ちゃん待ってんちゃうん?」
「……多分待ってるけど。今日はもう会えない」
「なんか連絡きた?」
連絡どころか本人がさっきまで目の前にいたことを、幸は知らない。
心配させるんじゃなく怒らせて、しかも金も払わせたなんてあり得ないと思う。
そんなあり得ないことを俺は今してしまい後悔ばかりが募る。
リカちゃんに責められれば責められるほど、俺は逆ギレしてしまう。呆れられたら悲しくて、簡単に許されたら「やっぱり俺に冷めたんだろ」と言ってしまいそうな気がした。
きっと今の俺は、リカちゃんが何をしても反発してしまうだろう。そう考えると、帰らないという選択肢が1番最善のように思えた。
「幸、今日は幸の家に泊めて」
聞かれたことには答えず、泊めてくれと言った俺に幸は少しだけ驚いたようだった。けれどすぐに元の幸に戻って笑う。
言いたくないことを聞かない。それが幸だってわかっているからこそ、俺も答えない。
「ええけど。朝帰る?それともうちから大学行く?」
「幸の家から行く」
わかったと頷いた幸は、みんなに抜けると告げて俺の元へと戻って来た。
残念そうな周りを放って俺を優先してくれる。そんな幸に甘えて俺はリカちゃんから逃げる。
明日は帰るから今日だけは許してほしい。
今の俺は緊張と不安と、罪悪感で一杯なんだって。自分が悪いことは自分が1番わかっている……明日はちゃんと説明するから一晩だけ時間がほしい。
リカちゃんはもう家に着いたのか、遅くなるなら迎えに行くという連絡がきていた。俺はそれに「今日は幸の家に泊まるから」と返事する。その後が怖くて電源を落とし、鞄の底に押し込んだ。
1日だけでいい。きっと次に会ったら、素直に構ってほしくて、リカちゃんが今でも俺を好きなのか実感したかったって素直に言う。
それで怒られようと、逆ギレしないって約束する。
切れた電源をそのままに幸の家へと向かった。2人で歩いている間も、俺の頭の中はリカちゃんのことばかりだ。幸への返事もままならず、とぼとぼと歩く。
そんな俺を心配しているのか、幸はホストになったばかりの頃の失敗談を面白おかしく話してくれた。
優しくされれば優しくされるほど、自分が悪いことを痛感する。
幸の家に入った途端、泣きそうになった俺は身勝手すぎる。
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