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「ウサマルが、あいつじゃなく俺の言うことを信じてくれんのは、なんで?」
真っ直ぐに向けられる目。外された頬杖の代わりに、また現れた痕。
「それ、もしかして昨日のやつに殴られた?」
訊ねると幸は首を振る。
「ちゃうよ。これは、ほんまに俺のミス。先輩を怒らせてもた俺が悪い」
幸の仕事に関して俺は何も聞かない。聞いてもわからないのと、別に知りたいと思わないからだ。
俺はホストの幸に興味はない。
「なぁ、なんで俺を信じるかって答えもらってへんで」
そんなの答えなくてもわかると思って流したのに、幸はまた聞いてくる。
やけに真剣で必死な瞳から目がそらせない。
「そんなの、幸が幸だからだろ」
当たり前の答えを返すと、なぜか幸は目を見開いた。そんなに驚くことでもないのに、不思議だ。
「幸は自分のこと話さないけど、人の話はちゃんと覚えてる。聞いてないように見えて考えてくれてるし、いいことも悪いことも言う。だから俺は幸が嘘をつくとは思ってない」
「それが嘘かもしれんやん。ウサマルに嫌われたくなくて、適当なこと言ってるだけかもしれん」
「嫌われたくないのに適当なこと言うって変だろ」
「本心じゃないかもって意味や」
幸はたまに難しい。
関西弁だからわからないのかもしれないけど、言ってる内容の意味がわからない時がある。
「別に良くない?本心じゃなくても、俺のこと思って言ってんなら嘘じゃないし」
「いや、嘘やろ」
「それでも俺の味方してくれんなら問題ないじゃん」
正論を返してくるやつは、周りにたくさんいる。俺は俺を認めてくれて、否定しないやつがいい。
歩に言えば「バカか」と言われることも、幸は「せやな」と受け入れてくれる。
俺にとっての幸は息抜きができる友達。だから合わせてくれているなら、それはそれで悪くない。
「幸こそ難しく考え過ぎだろ。俺だって面倒くさいときは適当に返すし」
「ウサマルの場合は殆どそれやけどな」
「…否定はしない」
グッとなりながらも認めると、幸は声を出して笑った。嫌味でも、苦笑でもなく嬉しそうな笑顔は、何度も見てきたものだ。
「ええなぁ……ウサマルのそういうとこ、めっちゃいい」
「意味のわかる日本語を話せ」
「ウサマルが男前でドキドキしちゃう」
「やっぱ前言撤回。お前は問題アリだ!」
隣同士だったのを1つ空けると、すぐに追いかけてくる。しかも距離は先程よりも近い。
「寄るな!赤毛玉!!」
「そんなん言わんといて。俺とウサマルの仲やん」
「仲なんてねぇし」
「あるある。友達……いや、これはもう親友やで!」
「断る!!!」
断ったのに笑う幸がちょっと怖い。ドMに慣れていないからか、どう対処していいのかわからない。
「だから寄るなってば!」
寄ってくる幸の肩を押せば、それより強い力で近づいてくる。
「えー。無理無理。ウサマルが人誑しなんが悪い」
「それ責任転嫁ってやつだからな」
「さすがウサマル、頭いい……ってことで、教育概論の課題見せて」
真っ白なプリントを掲げ、また課題を見せろと要求してくる赤毛。
いくらイケメンが甘ったるくお願いしても、頼む相手が間違っている。
「そういうのは俺じゃなく女の子に頼めよ!得意分野だろうが!!」
いつものふざけ合いに、何気ない一言。特別でも何でもないやり取りで笑って拗ねる。
ひとしきり笑った後、俺の背中を幸が叩く。
「ウサマルは、どんと構えとったらええねん。あんまり気にしとったら流されてまうで」
「流される?」
「人見知りやのに押しに弱いやん?バンビちゃんのペースに巻き込まれて、気づいたら仲良しなってるかもやで」
「それはない。俺とあいつ、全然気が合わないから」
ただ同じ家にいるだけ。共通点どころか、まともな会話さえないんだから仲良くなるわけない。
「俺は何考えてるかわかんないやつ、苦手なんだよ」
家に帰るまで後数時間。また出たため息に反応した幸が変な顔をして笑わせてくれ、少しだけ気分は上がる。
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