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いつもの時間にリカちゃんが出勤し、それをリビングから見送る。鹿賀が家を出るのが30分後で、俺はその後まだ時間があるから、ゆっくりと過ごしていた。
慌ただしい朝は嫌いだ。のんびりとテレビを観ながらゲームをしている時間が好き。そこにリカちゃんがいればもっといいんだけど、夏休み前で仕事に追われているから、しばらく我慢しなきゃいけない。
今日の天気予報は晴れで気温もかなり高い。朝のニュースを流しっぱなしのテレビから、明るいアナウンサーの声が耳に届く。
「なあ」
既に制服に着替えていた鹿賀に話しかける。すると鹿賀は、読んでいた本から顔を上げた。
「お前、今日もマンションの下で待ってるつもり?すっげぇ暑いって言ってるけど」
最高気温は今年で1番高いらしく、いくら夕方と言っても外で待つには辛いだろう。一応心配してやると、鹿賀が2度瞬きをした。
「なんだよ。お前が熱中症で倒れたら面倒だろ」
「これぐらいじゃ倒れませんよ。日陰にいれば暑さもましだし」
「バカじゃねぇの。陰にいたって暑いもんは暑いんだよ!」
とは言っても鍵は俺が持っている分しかない。後に出るのは俺なのだから、これを鹿賀に渡してしまえば鍵を締めることができなくなってしまう。
考えて出た答え。もうこれしかない、と俺はそれを鹿賀へと提案した。
「お前と一緒に俺も出る。んで、俺の鍵貸してやるから勝手に入れば?」
「それ、先生は駄目だって言ってませんでした?僕をこの家に1人にしないって」
「どうせリカちゃんの方が後に帰ってくるんだし、黙ってたらバレない」
病み上がりの鹿賀を外に放置するほど俺は鬼じゃない。いくらリカちゃんでも、それぐらいはわかっているだろうし、きっと怒らないはずだ。
いい案だと我ながら満足し、さっそく身支度を始める。
着替えてリビングに戻ると、まだ複雑そうな顔をした鹿賀がいた。それに話しかける。
「お前、変なところで弱っちいな。男なら小さいことは気にすんなよ」
「僕は真面目なんです」
「はいはい。うっせぇやつ……」
通学用の鞄にテキストとノートを入れる。
リカちゃんが買ってくれたこの鞄は、俺のお気に入りだ。しっかりとしながらも軽い鞄が、詰め込んだ荷物で重たく変わった。
「慧く……兎丸くんが僕に優しくするなんて気持ち悪いんですけど」
「俺は元々優しいんだよ。っつーか、今さら兎丸君って呼ばれる方が気持ち悪い」
いつの間にか名前で俺を呼び始めた鹿賀は、いくら注意しても呼び方を変えなかった。それなのに急に名字で呼ばれて不思議に思う。
手を動かしながら鹿賀を肩越しに見ると、椅子に座るそいつは暗い顔をしていた。
「お前、そんなに学校行きたくないのか?友達……はいないなら、好きなやつとか」
「僕が通ってるのは、兎丸くんと同じ男子校ですよ。好きな人が同じ学校にいるわけないでしょう」
ああ、そうだったと思い出す。俺の周りが性別に無頓着なやつが多いだけで、現実は鹿賀の言う通りだ。
俺に世間一般の返事をした鹿賀は、何かを躊躇いながらも口を開く。
「男同士で付き合うって、不毛だと思ったことないんですか?男女の恋愛と違って認められない、結婚もできないし公にも言い辛い……そんな不確かなもの、どうして選ぶのかわからない」
その言葉に非難する気配は感じられない。ただ純粋に、理解できないのだと言ってくる鹿賀に答える。
「俺、女嫌いだし…初めて好きだと思ったのがリカちゃんだから、他と比べようがない」
「じゃあ好きだと思ってるのが勘違いってことも?」
「それはない。勘違いで、あんな頭のおかしいやつと一緒に住めねぇよ」
本当は他にも『好き』を感じる理由はあるけど、鹿賀に言うつもりはなかった。すると鹿賀は、俺を見つめたまま訊ねてくる。
「他人じゃなくなるには恋人になればいいんですかね?」
「は?」
「そういう意味の好きって僕にはわからないですけど…。少なくとも他人は嫌だと思うんですよ」
「お前それ独り言か?」
頭がいいやつってのは、どこかおかしい。桃ちゃんも歩…は頭がいいかはわからないけど。そしてリカちゃんも変だ。
鹿賀も俺には理解できないおかしさを持っているのだと思い、正面から見つめる。
鹿賀が俺に向けるのは真顔。真剣そのものの顔で俺を見て、俺に向かって言う。
「兎丸くん、僕の恋人になってくれません?」
やっぱり、俺には鹿賀を理解するだけの力はないみたいだ。
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