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どう考えても拗ねているとしか思えないのに、鹿賀はそれを認めようとしない。眉間に薄い皺を寄せ、グラスの中の氷をストローでかき回している。
「あー……とにかく何か食うか」
メニューを取ると、同じように鹿賀もそれに手を伸ばした。2人ともサラダのページは飛び越えて、メインを選ぶ。やっぱり俺と鹿賀の食の好みは似ているらしく、俺が最後まで悩んだメニューを鹿賀は頼んだ。
それを店員に告げ、去ってしまえば沈黙が流れる。
ちらちらと窺う視線。それは鹿賀も同じで、俺たちはお互いに盗み見ては視線を背ける。
続きを聞くべきなのか、それとも素直に言ってることの意味がわからないと訊ねるべきなのか。これ以上、話をしたところで、俺に鹿賀が理解できるとは思えないけれど……ここで諦めたら、鹿賀は確実にリカちゃんに直談判するに決まっている。
それだけは絶対に、絶対に駄目だ。家の中が地獄に変わる未来しか想像できない。
「あの、さ」
おずおずと訊ねると、返事は思ったよりも早く返ってきた。
「なんですか?」
「俺、お前の言ってること全然わかんないけど……その他人がどうこうって何?お前にそんなこと言ったっけ?」
売り言葉に買い言葉で、鹿賀とは色々言い合った。その内のどこかで言った覚えがあるような、ないような気もする。
正直、そんな細かいことなんて記憶にもない俺は、一体いつの話か問いかけてみる。すると鹿賀は、言い渋ってなかなか話そうとしない。
「なあ、いつの話?全然記憶にないんだけど、もし言ってたら謝ってやらないこともない」
「言ったかどうか覚えてないのに、どうして偉そうにできるんですか?」
「覚えてないものは仕方ないだろ。いい加減うじうじしてないで早く言えよ」
「本当、僕にだけは強気なんだから……性格悪いのは兎丸くんの方だと思うんですけど」
テンポよく返ってくる嫌味に、もう放置して帰ってやろうかとさえ思う。お前なんかリカちゃんに怒られて、あの冷たい視線で凍りついてしまえって思う……けど。
相手は高校生で、不器用で素直過ぎる子供だ。ここは俺が大人になってやらないと、と思う気持ちも確かにある。
「俺、我慢するのと考えるの。本気で大嫌いなんだよ」
最後のチャンスを鹿賀に与えるも、それは無駄に終わった。目の前の表情が薄ら笑いに変わる。
「考えることが嫌いって、バカ丸出しですよね」
「…………帰る。もう帰る!お前なんか、あのドSに泣かされちまえ!」
テーブルに手をつき、勢いよく立ち上がった。人がせっかく優しくしてやろうとしているのに、好意を無駄にしやがる鹿賀を睨みつける。
「もう知らない。俺はちゃんと断ったからな!関係ないからな!!」
鞄を掴んで、席を離れようと一歩踏み出す。そのまま足を進めて出口へ向かいながら考えるのは、頼んだハンバーグが無駄になるってことと、このままじゃ鹿賀が支払うことになるってこと。
さすがにそれはマズい気がして、恐る恐る振り返る。
振り返るんじゃなかったと思っても、見てしまったものは遅い。
「………お前、卑怯なんだよ。そういうの見ちゃったら放っておけるわけないだろ」
再び戻ったテーブルでは、鹿賀が俯き項垂れている姿がある。けど、それがただ下を向いているだけじゃないことは確実で、その証拠がテーブルの表面に小さな水滴として現れていた。
「泣くぐらいなら初めから言えばいいだろ。ほら、俺が泣かせたみたいに見えるから泣き止めって」
備え付けのペーパーナプキンを渡すと、それを受け取った鹿賀が顔を上げた。
「こういう時ってハンカチを渡すのが普通じゃないですか?」
「そんなの持ってるわけねぇし」
「……兎丸くんが女の子と付き合えない理由、分かった気がします」
鹿賀の見下したような言葉と表情。目に薄っすらと涙の膜ができてちゃ、効果は半減だ。
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