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拓海の家からコンビニまでは歩いて10分もかからないだろう。鹿賀が帰ってくるまでの時間は、あまりない。それなら要点のみを告げるべきだと、俺は口を開く。
「この前、リカちゃんが鹿賀に冷たいから注意して喧嘩した。それはもう仲直りできたはず…なんだけど、今度は変に優しくしだして。なんか見てて嫌だったから、幸みたいに上手くやれよって怒った。そうしたら歩がキレた」
「幸って?」
「俺の大学の友達。歩もリカちゃんも知ってるやつで、みんなに優しくて誰からも好かれてるやつ」
ふぅん、と拓海が腕を組む。この説明で伝わったのかどうかはわからないけど、何かを考えているみたいだ。
しばらくして拓海が「なあ」と話しかけてきた。
「その時の会話をさ、ここで実演してみてよ」
「はあ?!そんなの嫌に決まってんだろ」
「でも慧の説明だけじゃ意味わかんないし。だって慧、自分に都合よく喋ってんだもん」
「そんなことな……い、と思う」
はっきりと言えなかったのは自分でも自覚があるから。
俺は悪くないって思う一方で、リカちゃんが理由もなく怒るわけないってわかってる。
言いたいことと言ったことが違う。伝えたいことと伝わったことが全然違う。
それがわかっているから断言できない。でも自分が悪いなんて思いたくない。
黙る俺を見て拓海がテーブルに肘をつき、そこに顎を乗せる。見上げてくる2つの目はそこまで大きくないのに、全部を見透かされている気がして嫌だ。
拓海とも喧嘩になったらどうしようって気持ちが、ふつふつと込み上げてくる。
「別にさ」
黙り込む俺に拓海が声をかける。
「喧嘩はしてもいいと思う。友達でも、彼氏彼女……慧たちなら彼氏彼氏?とにかく、喧嘩なんてあって当然だし。ただ、仲直りできなきゃ終わりなんだってことは忘れちゃ駄目」
「終わりとか言うなよ」
「だって本当のことだから。リカちゃん先生とも、歩とも。ちゃんと仲直りしなきゃ、2人ともいなくなっちゃうんだよ」
いつも怒らないリカちゃん。いつも怒る歩。2人はそれぞれ違ってて、でも、どちらもいなくなると困る。けど俺には自分から歩み寄ることはできなくて、そのキッカケもわからない。
自然と寄る眉間の皺。落ちるため息は深く、空気は重たい。そんな俺を励ましてくれるのは、高校の時から変わらない、けれど少しだけ大人になった拓海だ。
「ほら、今までだって慧と歩が言い合ったら俺が助けてやっただろ。3人組で上手くやれてたのは、誰のおかげだと思ってんだよ」
明るい声で得意げに言う拓海が胸を反らせる。威張った態度で言うくせに、その声は優しかった。
「ほらほら、お友達と喧嘩して泣きそうな慧君。お兄さんに相談してごらんよ」
「泣きそうじゃないし。お兄さんでもないし」
「俺の方が誕生日早いもんね。1ヶ月の差をなめんなよ」
立てた人差し指を振った拓海が顔を近づける。それが崩れて現れたのは優しい笑顔じゃなく、悪戯っ子のような悪い笑みだった。
「大丈夫だって。俺、歩の扱い方ならリカちゃん先生に負けない自信あるから。何年も一緒にいると弱みの1つや2つ握ってるに決まってるだろ」
「拓海……お前、なんだか黒たっくんが増えたな」
「黒たっくん?え、俺そんなに日焼けしてる?」
拓海が大人になったと思ったのは、俺の勘違いだったのかもしれない。自分の腕を見て日焼けの跡を探す拓海は、今までと変わらないバカだ。
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