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「男と付き合うってのは、正直理解できへん。でも、いつ誰を好きになるかなんて自分でもわからんことやん?なんで好きかなんて、本人同士がわかってたら他人がどうこう言うもん違うやろ」
だから気にするなと言いたいのか、幸が俺の背中をポンと叩く。
「ま、色々言われた腹いせにウサマル苛めたったけどな。びっくりした?」
赤い前髪の隙間から俺を覗いた幸は、すごく意地悪な顔をしていた。こんな幼いところがあったなんて、それも初めて見る様子で力が抜ける。
全部知ったつもりでいた自分が、バカみたいだ。
「あー、もう。幸がこんなやつだって知ってたら、俺はリカちゃんに幸みたいになれなんて言ってなかった」
髪を乱し、頭を抱える。すると幸は見せつけるかのように大きく頷いた。
「それな。ほんまな、それは絶対に言ったあかんやろ。そんなん言われたら誰でも落ちこむわ。せやのに、ああやって言えるんは頭おかしいで」
「ああやって?」
「電話で俺が言われたこと。てっきりウサマルに手出すなとか、意味わからんこと言われると思ってんけどな」
男を好きにならない幸が俺に手を出すわけない。そんなこと言われなくても、出さなくて当然だと幸は怒る。けど、その言葉は強い口調じゃなくて、呆れたような柔らかいものだった。
「今は色々言われて必死に考えてる途中だから、黙って話だけ聞いてやって、やってさ」
「なにそれ?」
「ウサマルのことが大好きすぎて、頭のおかしなリカちゃんからのお願い。牽制かけるわけでもなく、うちの子をよろしくねって、おかんか」
あまりにも幸が緩く笑うから、こっちが照れた。その内心では少しぐらい焦れよ、とか嫉妬しないのかと不満はある。
けれどきっと、俺の知らない会話が2人にはあったんだと思う。
リカちゃんと幸は、なんとなく似てるから。何か通じるものがあったとしても、きっとそれは俺には理解できないだろう。
「喧嘩して出て行かれたのに、相手の心配できるって大人やな」
「まあ……リカちゃん合コンの時は嘘ついてたけど、本当は30歳手前だから」
「は?!30歳?!あの顔で?」
「あいつ、すっげぇ童顔なんだよ。昔からちっとも変ってなくて、やばい薬でも使ってんのかと思うぐらい」
リカちゃんの見た目は本当に変わっていない。それなのにこうして喧嘩が続くのは、その中身が変わったのか、俺が変わったのか……。それとも俺たちの関係が変わってしまったのか。
そのどれかであって、どれでも嫌だと思った。リカちゃんが変わることも、自分が変わることも、2人が変わることも全部が嫌だと思ってしまう。
「なんか……やだ」
本音が零れて目を瞑る。童顔なことが嫌だと勘違いしたのか、幸は苦笑しつつも「若いっていいことやん」と答えた。
「そうじゃなくて、何かが変わっていくって嫌だなって。受験の時も思ったけど、今回はもっと嫌だ」
変わらないものなんてないって、痛いほど知っている。
それが良い方向に迎えば喜んで、こうして悪い方向に転がると嫌だと思う俺はワガママだ。そんな自分さえ嫌で、嫌じゃないところがないぐらいだ。
もう全部が嫌。鹿賀のことを考えるのも、リカちゃんと離れているのも、けど会ったらまた喧嘩するものも……嫌で、嫌すぎてそれしか言えない。
「もうやだ。やだな……」
ここにリカちゃんがいたら、笑って「やだやだ慧君」ってからかうのかもしれない。けどそれは俺の思い出の中のリカちゃんで、今のリカちゃんじゃないのかもしれない。
「なんで変わっちゃうんだよ、リカちゃんのバカ」
「俺から言わしたら、ウサマルのどアホやけどな」
「幸は俺の味方だろ?ここで裏切るなんて卑怯だ」
「俺は長いものには巻かれるタイプなんです。卑怯やなくて世渡り上手やねん」
言い返されて深いため息が出る。その直後に響いた振動音は幸のスマホで、それを見た幸が「ほれ」と渡してきた。
その差出人は牛島歩。歩からのメッセージだ……けれど。
『慧君ちゃんと飯食べてる?暑くてバテてたり、体調崩してないか?』
歩は、俺のことを慧君だなんて呼ばない。
そんな呼び方をするのは、この世でリカちゃん1人だけだ。
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