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at Last-2 ≪ side:Rika ≫
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「大丈夫」
さっきと同じ言葉を重ねた慧が、今度はこちらを向く。
教室で見せた緊張の表情ではなく、家で見せる気の抜けたものでもない。
上手く表現できない、初めての顔。何年も一緒にいるのに、今までにない顔をした慧がゆっくりと言葉を紡いでいく。
「リカちゃんは自分が思ってるより大きいから。あ、これは身長の話じゃなくて、なんて言うか……背中の大きさ?よくわかんないけど、俺の前にはずっとリカちゃんがいる」
「背中はそれほど広くないつもりなんだけど」
「そうじゃなくてだな。比喩だよ、比喩。とにかく、お前はいっつも俺の前にいて、時々後ろを振り返ったと思えば、すぐまた先に回り込んできやがる。だから俺は前を見ても後ろを見ても、リカちゃんしか見えない」
その言い方が迷惑そうに聞こえたのは、俺の勘違いではなかったらしい。苦々しげに眉を寄せた慧が、深いため息をはいた。
「リカちゃんまでくると、もう憧れるとかのレベルじゃない。新しい生き物を見てる感じになる」
「人を宇宙人みたいな言い方するなよ」
「宇宙人の方がまだ可愛い。あいつらは俺のことをバカにしないし、子供扱いしないし、秘密ばっかりじゃないし、変なところで急に病んだり、頭おかしくないし……多分だけど」
「慧君、それ以上言ったら合格点あげないからね」
「だいたい、俺がこんなに疲れてるのはリカちゃんが余計なこと聞いてくるからだ!あんな答えにくい質問、いきなり言われても困るんだよ」
横目でこちらを睨んだ慧が、明後日の方向に顔を背ける。その理由は、おそらく照れで。
「でも、慧君はちゃんと答えてくれた」
「うるさい。もう絶対に言わない」
「1日100回ぐらい聞きたいのに?慧君の意地悪」
「うるさいうるさい!!忘れた!なんて言ったか、全部忘れた!」
顔だけでは足らず、背中を向けて拒絶する。それでも見えている耳が真っ赤で、部屋を出て行こうとせずに傍にいてくれるから、本気で怒ってはいないのだろう。
慧が忘れたことにしても、俺は絶対に忘れない。
あの一瞬で咄嗟に出た言葉は飾り気もなく、それでいて日本語として不十分なところがあったけれど。今の慧にとっては最大の愛情表現だと思う。
照れ屋で皮肉ばかりの君は、もう2度と言ってくれないだろうけど。
それでも俺は忘れずに覚えている自信がある。いつか嫌でも来る最期の時に……できればあと100年は先がいいけれど……その時に、あわよくば耳元で囁いてほしい。
『生きるとか難しいことはわからないけど、すごく幸せだから死にたくないと思う。これから嫌なこともあって、苦労することもあるかもしれない。けど、絶対に嬉しくて楽しいことの方が多く待ってる。それをくれる人がいるから、生きたい』
『──俺には、俺の為に生きてくれる人がいて……その人の為に生きたいって思う』
照れながらもはっきりと言ってくれたその言葉を、絶対に忘れない。
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