アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
644
-
電車を降りて駅からマンションへ戻る途中、俺は本屋へと立ち寄った。歩に言われた通りにするのは嫌だけど…でも本気で考えてみようと思ったからだ。
本当は大学もちゃんと調べて探してした方がいいんだってわかってる。けど俺はたくさん情報があったら悩んで決められない。
興味があるなら試せばいい…そう桃ちゃんは言った。別に今答えを決めなくてもいいんだって言ってもらえたことが嬉しかった。
「あ、そういえば…」
リカちゃんは俺に「ちゃんと考えろ」って言ったけど「ちゃんと決めろ」とは言ってない。桃ちゃんに言われるまで気付かなかったけど同じことをリカちゃんも言ってくれてた。
でも俺は、それを「お前の勝手にしろ」って言われてるんだと思ってた。
冷静になると今まで見えてなかったものが見えてくる。父さんのことも、あの女のことも…そしてリカちゃんのことも。
離れている時間は辛いけれど俺にとって大切なのかもしれない。こうやって自分で考えることが大事なんだって教えてくれる。
本屋の2階、参考書のコーナーで良さげな本を選んで、ついでに大学の過去問も探した。たくさんある中から指で背表紙をたどっていく。
「何か探し物?」
聞こえた声の方向、右隣を見た。
「また会った。今度は前と逆やけどね」
「ケーキ屋の……」
そこにいたのは前にケーキ屋で会った着物姿の男。今日も高そうな着物を着てニコニコ笑っている。
「なんか探しもん?それなら手伝うで」
「あ、でも」
「借りは返さなあかんって教えられてるから、な?」
人の良さそうな顔して言われると断り切れずに俺は探してる大学の名前を言った。
「ふうん。君はそこにいくん?」
「多分…いけたら、だけど」
「なんやそれ。大丈夫、絶対いったる!!って思ったら叶うから」
そう言って俺の背中を男が叩く。
いったる?それがわからなくて首を傾げる俺に、その男は苦笑いを浮かべた。
「ごめんなぁ。ずっと関西におるから関西弁しか喋られへんねん。いったるは、いってやるって意味。
要するに気合いでなんとかするって事やな」
頷いた男は自信たっぷりで、すげぇ得意げに見えた。リカちゃんとも、桃ちゃんや美馬さんともまた違う大人の男に少し興味が出た。
「あの、名前は」
「俺?俺は由良。理由の由に良いって書いて由良。
君は?」
「俺は慧」
漢字を説明できず宙に書いて伝える。由良さんは頭がいいのか1回でわかってくれた。
「んじゃ慧君やな!!」
慧君…それはリカちゃんがウサギ以外で俺を呼ぶときによく使う呼び方。離れる離れないで揉めてから聞いてない呼び方に胸が痛くなった。
「慧くーん?」
「あ、なに?」
俯いていた俺に由良さんは本を見せてくる。
「ほら。これが慧君の探してた本ちゃう?」
見つけたソレを俺に渡してくれる。一瞬触れた指先はすごく温かい。
「探しもん、見つかって良かったな」
「…うん」
「なんや。なんか悩み事あるん?」
俺を覗き込んでくる黒い瞳。リカちゃんよりも茶色が残る瞳が俺を映し、細まった。
「ふむ。訳ありってやつやな。そんな時は俺に任せ!」
「うわっ…えっ、なに?!」
勢いよく身体が引かれ、俺はつんのめってしまう。それを空いた方の手で支えてくれた由良さんがニヤッと笑った。それはアイツに少し似てるような、でもどこか違和感を感じる笑い方。
「めっちゃイイトコ連れてったる」
有無を言わさない由良さんに引きずられるままレジまで連れて行かれ、精算を済ませた俺たちは店を後にした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
644 / 1234