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「とにかく帰れよ。お前と話してると疲れるんだって」
俺が半歩後ずさればそれより多く由良は近づいてくる。
「お前にもそんな感情があるんやな」
「あるだろ。俺だって人間なんだし」
由良が伸ばした手をもちろん俺は無視した。行き場を無くした手を由良は静かに見つめて言う。
「理佳はあの子とあいつを重ねてるだけやろ?弟に優しくして自分を正当化したいだけなんやろ?」
「どうしてそうなる…お前はつくづくバカだな」
「それ以外に何があんねん!あんな子供のどこがええねん!!」
どっちが子供なんだと思った。
昔からそうだ、由良は自分が1番じゃないと気が済まない。どんなことでも自分がトップじゃないと嫌で、自分以外がチヤホヤされると怒る。
あの頃から何も変わってない由良は知らない。
「いいところ、ねぇ……言えない」
「ほらやっぱりな。やっぱり俺の方が!」
「勘違いするな。無いんじゃなくて言えないだけだから」
1番なんて自分で決めるものじゃなく自然とそうなるってことを。何かを思う時、真っ先に浮かんでしまう相手こそ自分にとって1番特別な人だって由良は気づこうとしない。
それを見つけた俺がこいつに手を差しのべることは二度とない。
「ライバルが増えるのは困るから言わない」
「ライバル…ってなんや?」
「あのウサギちゃんは俺だけのモノなんだよ。いいところなんて誰が教えるかバーカ」
必要とされたい気持ちがないわけじゃない。でもそれよりも大切なことがあるんだって、今の俺は知ってる。
求められるのと同じぐらい求める喜びを俺は知ってしまったからもう戻らない。
笑う俺とそれを睨みつける由良。2人ともお互いの出方を探っていると着信音が鳴った。
それは由良のスマホで、どうやら抜け出してきたのがバレたらしい。ため息をついた由良が離れる。
「アホらしい……別にええよ。どうせお前は嫌でもこっちに来るんやから」
俺は立ち去ろうとした由良の名前を呼び、渡し損ねたUSBを投げた。2人の間にそれは落ちる。
「悪い。手元が狂った」
「っ…お前!!」
自分だって同じことをしたくせに、人にされると怒るなんて理不尽だ。
そんな理不尽で狡猾、そして卑屈で救いようのない男に俺は別れを告げる。
「そんなに俺が気に入らないならお前の望み通り全部やるよ。お前と違って俺は欲しいもの以外何もいらない」
今が無くなってもいい。2人で過ごせるなら何もいらない。その気持ちを込めて由良を見つめる。
目を細めた由良は俺を見下して笑った。
「何も無いお前なんて誰が必要とすんねん。自惚れんな」
「それを決めるのはお前じゃないだろ。お前に必要とされたいなんて微塵も思ってないから」
「そもそも捨てるってなんやねん。お前は何をするつもりなんや?」
「それは秘密に決まってんだろ。どこに自分の手の内を明かすバカがいんだよ」
遠くで完全下校のチャイムが鳴る。それを合図に俺は校舎へと戻ろうとした。
「理佳!言い返せんからって逃げんなや!!!」
背後で叫ぶのは俺の従兄弟。それ以上でも以下でもない。
「逃げる?それは違うかな。最初からお前なんて相手にしてない」
時間はもう10分以上経っていて、案の定その顔を見るのが耐えられず俺は目を伏せた。
自分の腕時計を指差した後に手を振る。
「悪い。お前の顔と声がもう限界。目障りだから消えろ」
言い捨ててその場を後にする。職員室には戻らずぼんやりしながら適当に校舎を見て回った。
昇降口に差し掛かったところでウサギを見つけた。その手には単語帳が握られていて、張り付けていた俺の笑顔が自然のそれに変わる。
そうやって頑張ってくれるのは俺との未来の為だと前向きに受け止めつつ、1人で歩いて行けるようになったのが寂しい。
その不安を悟られないよう必死に隠しながら残りの仕事を終えて帰路に着いた。
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