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卒業式【獅子原理佳×兎丸慧】
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リカちゃんは肝心なことは言ってくれなくて、いつもごまかす。けれど今は何も包み隠さず伝えてくれる。
それが慣れなくて、夢のようで、信じられない。
「っ……これ…嘘だ。俺をからかってんだろ?!」
「嘘じゃない。俺は嘘はつかないって知ってるくせに」
リカちゃんに捉えられているのとは反対の手で口元を押さえる。じゃないと、自分が何を言ってしまうかわからない。
「前に予約しておいたの覚えてないのか?言う時は特別な場所で、特別な言葉で伝えるって約束したのに」
指輪に口付けていたリカちゃんが、ゆっくりと目だけを俺に向けた。微かに見える唇が確かな声と共に動く。
「言葉が欲しいならなんて言うんだっけ?慧君」
クスクスと笑ったリカちゃんは指から始まったキスを手の甲に滑らせ肩を通って首へと。そこから頬へ、鼻へ、額へと移す。けれど口にはくれない。
それは俺が押さえてしまっているからだ。
自分でもどうしてかわからないけど…震えが止まらなくて、やめてと繰り返す。それなのに、リカちゃんの攻撃は止まない。
「慧とここで出会って、色んな事があって楽しかった。抜け殻だった俺に生きてる実感をくれてありがとう」
語られる思い出話は、この後に来る『その時』を意識させる。リカちゃんはもう待ってくれない。
手加減なんて絶対にしてくれない。
「……あ、やだ。もうやだってば、リカちゃんやだ」
「朝起きて慧が居て、眠る前も眠ってからも傍に居る。これからの人生、お前なしなんて考えられない」
「やだやだ、待って。リカちゃん待って…俺無理だっ、無理」
2人きりの部屋が甘い空気で満たされ、滲む視界でリカちゃんが歪む。
漏れる嗚咽を殺すために強く、より強く口を覆った。
身体ごと逃げようとする俺をリカちゃんが抱きしめる。
「なんで逃げようとするかなぁ…これからが良いところなのに」
「やだ…こんなの無理。やだっ怖い…リカちゃん待って」
「怖いって言う割に、手は繋いだままだけどね。慧君可愛い」
逃げたい。でも続きが知りたい。
胸が痛い苦しい熱い……身体が熱い。
もう既に嬉しくて幸せで怖い。これ以上嬉しくなったら、俺きっと死んじゃうと思う。
それなのに…リカちゃんは……リカちゃんだ。
「なぁ慧君」
俺を抱きしめていたリカちゃんが身体を離し、身を屈めて目線を合わせた。
「一度しか言わないからちゃんと聞けよ」
そう言ったリカちゃんの長い睫毛が目の前で揺れ、その奥から黒い瞳が覗く。
「これからも慧には俺の為に笑ってほしい。その手助けをさせてほしい」
時に意地悪で、時に厳しく、けれど優しい黒い色。いつも俺を見つめて俺を見守ってくれた甘い色。
それがゆっくりと細まり、その時が来た。
「俺は慧の全てになりたい。最期の瞬間まで俺と生きて」
一旦言葉を止めたリカちゃんが、力の抜けた俺の両手を握りしめる。
「結婚しよう、慧」
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