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「天使ちゃん!背中、流してくれるかな?」
夕飯が終わり、のんびりしているとお父さんが突然そんなことを言い出した。もちろん俺が答える前にリカちゃんによって却下され、歩に鼻で笑われ桜さんに冷笑を浴びせられてお父さんは黙る。
本当は泊まる予定じゃなかったのに、流れで1泊することになってしまい、促されるままシャワーを浴びる。部屋着は歩のものを借りた。
どこで寝るのか心配していると、歩が自分の部屋を使えばいいと提案してくる。いつもでは考えられないそのセリフに、俺は歩を二度見して問いかけた。
「歩はどこで寝るんだ?」
俺とリカちゃんが部屋を使ってしまったら、歩の寝るところはない。けれど歩は平然と答える。
「俺は桃さん家行くから。あのばい菌オタクと一緒の家でなんか寝たくない」
「桃ちゃん家……あ、そっか。明日も祝日だもんな」
普段は仕事で忙しい桃ちゃんが休みならば、歩が泊まりに行くのは当然だ。納得した俺の肩に、無表情の歩が手を乗せる。
傍にはソファをベッド代わりにしようと準備しているお父さんがいて、キッチンには皿洗いをしているリカちゃんがいて、そしてテレビを観ている桜さんもいる。
それなのに、恥を知らないバカな友人は声を抑えることなく言いやがる。
「部屋は貸してやるけど絶対ヤるなよ。俺のベッドで盛ったら許さねぇからな」
シーンと部屋全体が静まり返り、その元凶である金髪野郎だけが出かける準備を終えて家を出て行く。
誰も何も言えない状況……気まずさしかないこの空間に、ゴホンと咳払いが落とされた。
「これは私が天使ちゃんと一緒に寝るしかな」
「はい慧君、部屋行くよ」
お父さんの言葉をあっさりと切ったリカちゃんが、俺の腕を掴む。桜さんに軽く会釈してリビングを出た俺たちは、迷うことなく歩の部屋へ。
入った途端にリカちゃんの眉間に皺が寄った。
俺たちの家は、リカちゃんが毎日のように掃除しているだけあって、驚くほど綺麗だ。埃1つ落ちていない、と言っても過言ではない。
そんなリカちゃんだからこそ、許せないのかもしれない。
ベッドの上に脱ぎ捨ててある部屋着。部屋の中心にあるローテーブルには、飲み干されたペットボトルが数本並び、読みかけの漫画が開いたまま置いてある。
テレビの前には適当に置かれたゲーム機とディスクが散乱していて、ハッキリ言って汚い。
物が溢れすぎている部屋を眺めたリカちゃんがため息をついた。
「あいつ……初めから掃除させる気だったな」
その言葉通り、目立つところに置かれたゴミ袋。綺麗好きなリカちゃんが、こんな部屋で一晩とはいえ過ごせるわけはなく、嫌々ながらも部屋を片していく。
ゴミを捨て、洗濯物をまとめたリカちゃんが出しっぱなしだった本を本棚へと戻す。初めとは見違えるほど整理整頓された部屋に、満足そうに頷き窓辺に立った。
その手には、俺があげたシガレットケースが握られている。
「普段より格段に疲れた」
リカちゃんがそう言うのも仕方ないだろう。
今日は俺を紹介してくれ、夕飯も1人で作って片付けまでして。その上、こうやって部屋まで掃除させられたんだから。
それでも文句を言わないところがリカちゃんらしい。俺なら怒って帰ると思う。
それなのに、リカちゃんは怒らない。
「慧君も疲れただろうし先に寝てくれていいよ」
「リカちゃんは?」
「さすがにこんなに早くは眠れないかな」
そう言われて時計を見ると9時を過ぎたところ。寝るには早すぎる時間……かと言って、自分の家じゃないから特にすることもなく、テレビを点ける。
けれど俺の意識は1人に、1つに向かったままだ。
『リカちゃんは俺のこと知りたくないのか?』
それが聞きたい。
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