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いきなり直球で聞くわけもいかず、けど何も聞かないのは性に合わない。
話の切り出し方を窺っていると、タバコを消したリカちゃんがテレビ画面を眺めていた俺の後ろに座る。狭いそのスペースに身体を無理におし入れ、後ろから抱き付いてくる。
「リカちゃん、狭いんだけど」
久しぶり、と言っても数時間ぶりにまともに触れるリカちゃんに、本当は嬉しいくせに憎まれ口を言う。するとリカちゃんはそれを無視してテレビの音量を下げた。
「慧君癒して」
「先に寝ていいって言ったのお前だろ。なんだよ癒してって」
「この俳優と俺、どっちが好き?」
全く人の話を聞かないリカちゃんは、画面に映る俳優を指さして訊ねてきた。仮にも男である俺に、なぜ俳優と自分を比べるのか……きっと俺の恋愛対象が男だと思ってるからだろう。
でもそれは違う。
俺はリカちゃんだから好きなのであって、別に男が好きなわけじゃない。でも女は嫌いだ。
男とか女とか関係なく、リカちゃん以外を好きになることはない。それをリカちゃんはわかってるんだと思う。
あぁ、だから別々の時間が気にならないんだと思った。
「芸能人と比べるなんて、どんだけ自信あんだよ。バカか」
ツン、と顔を背けて俺は答えない。するとリカちゃんは小さく笑うだけで何も言い返してこない。
テレビに映るのは、綺麗な衣装を着て男なのに化粧をした『芸能人』だ。対して背後から俺に抱き付いてくるのは部屋着で、タバコの匂いをさせた『一般人』比べるなんておかしい。
けど、どっちだと聞かれたら、その一般人を選ぶ俺はもっとおかしいのかもしれない。
もっとリカちゃんに俺を気にしてほしい。不安にさせたいわけじゃないけど、俺のことを考える時間を増やしてほしいっていうのは、ワガママなんだろうか。
振り返ってリカちゃんを凝視する。気づいたリカちゃんが「なに?」と聞いてくるのに「なんでもない」と答えた。
「リカちゃん、寝る」
「それはまた急だな。まあいいけど」
すぐに離れてしまった温もり。寝ると言ってしまった手前、ベッドに入らなきゃいけないのは仕方ない。
潜り込んだ布団は歩の匂い……っていうかタバコの匂い。リカちゃんと同じもののはずなのに、やっぱり他人の感じがして落ち着かない。
少し先に手を伸ばせば届く背中。気づけば俺の腕は勝手に伸び、その服を掴んでいた。
「どうした?」
俺が引っ張ったことにより、強引に引き寄せられたリカちゃんは首を傾げる。
「寒い」
「寒いってもう5月だぞ」
「寒いったら寒いんだよ!」
自分の勝手さに嫌気がさす。あからさまな嘘をついて呼ぶくせに、肝心な話はできなくて、相手から動いてくるのを待つなんて男らしくない。
「別にリカちゃんが嫌ならいいけど。俺が風邪ひいたらお前の所為だからな」
わざと困らせて、それに応えてくれたら安心する。そうやって俺はいつもリカちゃんを試す。
けれど心のどこかで、結果はもうわかっている。
「うちの慧君は家でも外でもワガママ放題だな」
テレビを消したリカちゃんが立ち上がり、俺がかぶっていた布団の中へと身を滑りこませた。
違和感だらけだった匂いがリカちゃんのものに変わり、一気に身体の力が抜ける。
「ほら、おいで」
ベッドの中で抱き寄せられ、また俺の言う通りにしてくれたことに安心する。
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