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「なんとなく由良さんがリカちゃんを嫌う理由はわかった…けど、どうしてリカちゃんが由良さんをそんなに嫌うのかわかんねぇ」
悪く言われたぐらいじゃリカちゃんはあんなに嫌がったりしない。きっと相手にしないだけで放ってるはずなんだ。
「あいつが言ったことがどうしても許せなかったから」
「言ったこと?」
答えたリカちゃんの眉がピクンと動いた。その時の情景を思い出したのか、顔を顰める。
「あれは大学の卒業前だったかな。久しぶりに会ったあいつがさ、お前が死ねば良かったのにって言ったんだよ。まあそれはいいんだ…俺もずっとそう思ってたから。
でもその後の一言が余計だった」
死ねば良かったを許せるのもどうかしてる。けど俺はリカちゃんが昔どれだけ病んでたか知ってるから何も言えない。
「あいつ…由良はお前みたいなのを助けるなんてバカな男だって言ったんだよ。星一のことを無駄死にした救いようのないバカだって」
拳を握ったリカちゃんの手に筋が浮かぶ。握った指先が赤くなるほど力を込めて怒りを耐える。
「俺のことを何て言われようがいい。でも星一のことを悪く言うのは絶対に許せない」
「リカちゃん…」
「だから俺はあの家に近付かなくなって、由良が正式に家を継ぐことになった。俺は教師になるつもりだったし、あっちの世界に興味はない」
「あっちの世界?」
「獅子原の家は旧家でさ。色々と事業に手を出してるんだけど…うちの親父はただの学者だし、俺も関わるつもりなんて無かった。頼まれた仕事をして相応の報酬を受け取るだけでいい」
ずっと不思議だったことの真相を知る。やけにセレブだと思っていたリカちゃんの金回り。高いマンションを買って高い車乗り回してる理由が今わかった。
「ただ、どうしてか爺さんが俺のこと気に入ってて目をかけてくれたんだよなぁ…。俺、爺さんのことだけは結構好きだったから」
「お前愛想だけはいいもんな」
「愛想だけって…もっと他に言い方あるだろ」
「お前の性格の悪さは俺がよく知ってる」
ゴホンと咳払いしたリカちゃんは言い返してこない。性格が悪いって自覚してるからか、言い返しても無駄だと思ったのか話を元に戻した。
「でもそれすら由良は気に入らないみたいでさ。あいつが跡継ぎに決まってからは由良が家を仕切ってるから無茶な仕事が多い」
もうそれどう考えてもただ構ってほしいだけだろ…興味がないにも程がある。
俺は少しだけ由良さんに同情してしまった。
「結局あいつは何でも自分が1番じゃなきゃ気が済まないんだよ。横暴なやり方に周囲がどれだけ困ってるかなんて考えない。だから爺さんは俺に由良の補佐についてくれってよく言うようになった」
「補佐ってなんだよ」
「今受けもってる生徒が卒業したら教師を辞めてこっちに来てくれって。由良の秘書みたいな感じかな」
冗談じゃねぇ…そう呟いたリカちゃんが俺の頭を撫でる。由良さんのことを話す時とは違う優しい目をして俺を見る。
「教師は…できれば続けたいとは思う。でも辞めなきゃいけなくなったら辞めてやる。俺の目的は達成したからな」
「目的?」
「前に言っただろ。教師なったのは星一がなりたかったからだし、お前の母親も見つけた」
頭にあった手が次は耳に触れる。そこに髪をかけて満足したのか今度は頬へと移動する。
「1番の優先はお前。俺が教師だからって理由で引き離されるなら今すぐにでも辞める」
「俺が優先…」
「それ以外に何があんの?俺はどこにも行かないし、お前を1人になんてしない。だから爺さんにどれだけ頼まれても向こうには行かない」
リカちゃんが俺の鼻先に人差し指で触れた。ツンツンとそれを何度かくり返す。
「俺はお前の傍にいたい」
「リカちゃん…」
「それだけで幸せなのにな。それすら邪魔されるなんて耐えられない」
目を伏せて笑ったリカちゃんが灰皿に手を伸ばす。また吸おうとして、俺を見て持っていたタバコを机に放り投げた。
「本当は家のことも由良のことも話したくなかった。何も聞かせないまま1人で解決するはずだった」
「なんで?俺に話しても無駄だからか?」
首を振ってリカちゃんは否定する。
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