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「リカちゃんごめん。テストに夢中でリカちゃんのプレゼント用意してない」
「………プレゼント?」
「リカちゃんの言いたいことはよくわかる。お前がタダで納得するような甘い男じゃないのはわかってる…それに俺も男だ。貰いっぱなしはやだ」
途中で遮られないように早口で捲し立てた俺に、珍しく隙だらけのリカちゃんが瞬きを繰り返した。
「だから何のこと?お前さっきから何言ってんの?」
電話越しじゃなく本人に向かって言うのは少し照れるけれど、こういう時だからこそ面と向かって言いたい。
眉を寄せているリカちゃんに向かって俺は声だけは強気に言い放つ。気合いを入れたはずが、情けないことに声が震えてしまった。
「だからさ、俺がプレゼントになってやる。この俺が貰われてやるって言ってんだから大切にしろよ変態」
自分で苦し紛れなのはわかってて、でもきっとこれが俺らしいと思う。だって俺が真面目に言ってもきっと失敗しちゃう。
冗談っぽく言ったのに頭のいいリカちゃんはすぐ理解してくれた。
「本気で言ってる?お前それ本気で言ってんの?」
俺の肩を掴んだその力はすげぇ強くて正直痛い…けど俺は我慢して笑った。
「こんなの冗談で言えるのはお前ぐらいだろ。どこにプレゼントは俺だなんて寒いセリフ言えるヤツがいんだよ」
リカちゃんなら冗談でも本気でも使えそうなセリフ。けど、それをこの俺が誰にも強要されずに言うなんてあり得ない。
さすがに照れ臭くなってきて顔を背ける。寒いフリしてコートの襟に顔を埋めて隠し、でも目線だけはリカちゃんに向ける。
リカちゃんが俺にくれた忘れもしない言葉を。
たくさん言われた寒いセリフの中でも、トップクラスに入るあの言葉を口にする。
「もちろん途中でキャンセルするとか認めねぇからな」
その後に続くのは無言…とにかく恥ずかしくて仕方ない。どういう神経でこれを自信たっぷりに言えたのか、それはリカちゃん本人にしかわからないけれど、もう絶対に言わない。ってか言えない。
「なんか答えろよ。スルーされるとかクソ恥ずかしいんだけど」
なんの反応も示さないリカちゃんに文句を言うと、丸く見開いていた真っ黒な目がゆっくりと細まった。
「プレゼント……プレゼントがお前」
小さく呟いたすぐ後に勢いよく引かれる身体。近付いたことで甘い香水よりも強いタバコの匂いが俺を包む。
久しぶりに感じたリカちゃんの体温に息が止まるかと思った。
「好きだ」
肩に押し付けられた顔が痛くて、遠慮なく抱きしめられた身体が痛くて、その声を受けとめた耳が痺れるように痛い。
でも、それすらどうでもよく思えるほど心が痛い。
「もうお前に俺は必要ないかもしれない。不甲斐ない姿ばっかり見せて幻滅したかもしれない」
触れた肌から伝わってくるリカちゃんの音。俺よりもピッチが早くて強い鼓動がリカちゃんの余裕の無さを教えてくれる。
言葉巧みに言いくるめるんじゃなく、作り物でもないリカちゃんの本音なんだって教えてくれる。
「ちゃんと挽回するから。もう弱いところなんて見せないって約束するから……傍にいてほしい」
力が緩んだ隙に俺は顔を上げた。間近に見えたリカちゃんは、耐えるように瞼を閉じていた。
腕の中から抜け出そうと身じろぐと俺の視線に気付いたリカちゃんが目を開けて笑う。
「次からはどんな事も完璧にこなしてみせる」
そう言った顔は今まで見たどれよりも下手くそな作り笑いだった。
やっぱり俺が近くにいればいるほどリカちゃんは無理してばっかりだ。
ほら、また胸の辺りがズキズキする。
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