アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2
-
ぱちん、と言う音で目が覚めた。
同時に頬にヒリヒリと、か弱くも確かな痛みが走った。
薄く目を開けると、まだ言葉も喋れないような子供が俺の寝ているベンチにつかまって立っていた。ピンクのよだれかけに、パッチリとした大きな目でまじまじと見つめてくる。俺の頬を叩いたであろう手のひらを高く掲げながら。
空はもう明るくなっていて、一晩中この寒い中寝ていたのかと思うと寒気がした。
「あう」と唇を尖らせた幼児は、俺の髪の毛を1束掴んでこれでもかという程にぐいぐいと引っ張る。おそらく、「どけ」と言いたいんだろう。
「⋯痛てぇ。」
小さいながらも握力のある手を解き、ゆっくりと起き上がる。
まだ身体には疲れとだるさが残っていて、ため息をつかざるを得なかった。
俺の顔を見るや否や、さっきまで口を尖らせていた幼児はみるみる顔色を変え、眉間にクシャッとシワが寄ったと思いきや突然サイレンのように泣き出した。
近くにいた親が駆け寄り、俺を睨みつける。
気付かないふりをして、コートに付いた砂と葉っぱを叩いてはらい、立ち上がる。
ポケットの中のスマホに目をやると、ちょうど朝の7時だった。こんな時間に、とは思ったが、公園には小さい子供を連れて遊ばせている親子がちらほら見えた。
驚くほどの快晴で、だけど、気分が晴れるわけでもなく。
昨日のことを思い出そうとすると、またあいつの悲しそうな顔がよぎる。
ああ、早く忘れたい。
肺の奥底から空気を吐き出した。が、なんの意味もなかった。
「⋯鬼塚くん?」
声のする方へ視線だけ向ける。
「何してるの⋯?こんな、ところで」
女の声は、酷く強ばっていた。
手に持っていた学生鞄を強く握りしめ、一定の距離を置いて話す。
「がっ、学校⋯行かないの?今日、」
そんなに怯えるくらいなら話しかけてくんなよ、と言いたいところだったが、あいにくそんな気分ではなかった。
無視してどこかコンビニにでも行こうかと背を向けた瞬間、コートの裾が強く引っ張られた。
「お、鬼塚くん⋯顔色悪いよ⋯?大丈夫?」
「私の家近いから、休んでく⋯?」と後に続けて言った。
微かに頬は紅潮していて、わかりやすく視線をそらされた。
返事をしなくても会話が進んでいく。何故か、腕を引かれている。同じ制服なだけで、顔も名前も知らないやつに。
女の家らしき二階建ての一軒家には、綺麗に整えられた植木鉢や西洋の小人の置物がこじんまりと置かれていた。
「上がっていいよ。外寒いだろうから。」
言われるがままに玄関に入り、一足しかない靴を見て立ち止まる。
「おっ、お茶でも飲む⋯?」
面倒くさい。
頬を染めて勝手にテンション上がってるこの女も、昨日の出来事も自分の理解不能な感情も全部、何も考えたくない。
「あっ、でももうすぐで学校始まるから、早めに帰った方が⋯」
「⋯るせぇな」
びく、と女の肩が揺れる。
「初対面の奴に指図されたくねえ」
日当たりのいい家。温かみのある家具に、ほのかに香るラベンダーの香り。立ち振る舞いに、喋り方。いい家庭で育って優しい親と恵まれた環境の中で育ってきたお嬢様ってところか。
はあ、とため息をついて、女に背を向け扉の取っ手に手をかける。
「あっ!あの、学校⋯」
「行かねえよ」
「あの、もしかして行くとこないの⋯?さっきも公園で寝てたし⋯」
じろりと睨みつける。だが、女は臆することなくこう続けた。
「よっ⋯よかったら、少しの間だけだったら部屋、貸せるけど⋯」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
184 / 219