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白い息が空気に紛れる。
ポケットの中で携帯を握り締めた拳に、より力が入る。
コンビニにはいなかった。
近くの駅にも、どこの店にも姿は見えない。
はやく、
早くかけてこい。
鳴れば迎えに行く。
だから早く、いなくなる前に見つけないと。
急かすように遠くで雷が鳴る。
もう一度、空に稲妻が走る。
まだ着信はない。
公園の隅に転がってるボロボロの自転車を蹴り上げた。
柵にぶつかったハンドルが、汚い音を立てて雨の雫を撒き散らす。
通行人が不気味そうに見ているのを睨み返して、ため息を吐いた。
俺は、自分でも驚くほどイライラしてる。
それ程大切な存在じゃなかったはずなのに。
家に居た女を彼女と勘違いして出てったのか、他に用事があったか。
よく一緒にいる「慎太郎」の家に行ってた、なんてことだったら、今の俺はとてつもなく馬鹿らしい。
いっそこのもう一つの傘をどっかそこら辺に捨ててさっさと家に帰ろうか。
濡れた植木と葉っぱに埋もれた、捨てるには丁度いいベンチを見つけた。
傘を握って、草を退けて、
姿を表したそのベンチには、雨でびしょ濡れの大きい荷物が乗ってあった。
今は夜中で、暗くてあまり見えない。
動かそうと手をかけた、その瞬間。
「......んっ、うぅ...」
人の声、呼吸、
それから体温。
荷物じゃない、人間だ。
人とわかった途端、自分で理解する前に声に出してた。
「―――まき、」
濡れた髪、
手には携帯を握り締めて、ベンチに横たわっている。
なんで、こんな所に。
「......おい、」
傘から落ちた雨の雫が、頬に落ちた。
服の袖で拭うと、うっすら目を開けた。
「.....まき、」
頬が熱い。熱がある。
細い指が、握ってた携帯を置いて、俺の方へと手を伸ばす。
ゆっくり、口を開いて
消えそうな声で放った。
「...てん、ちょ......」
その声が、今にも泣きそうで。
震えた指で、俺のコートを掴む。
「てんちょう......っ、」
" 店長 "?
前、勝手に家に上がってたやつのことか。
告白されただのキスされただの言ってたヤツ。
お前あんなのに夢中になってんのかよ。
こんなにしがみついて、離れたくなくなるほど。
馬鹿らしい。
「好き」なんてそんなもの、いつかは消えて忘れるもので、
それが辛いなら最初から突き放せばいいだけの事で。
けど、
こんなに苦しいならもう手遅れだ。
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