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音楽室に鍵を掛ける楠見先生に挨拶して、知紀くんと帰りかけたときだった。
「沢田!」
先生によび止められた。
「先、帰ってるな」
知紀くんが意味ありげな笑顔を向けてくる。
確か、さっきもそんな顔をしてたけど、どういう意味なんだろう?
「えっ!? ちょっ、……待ってよ。ボクも帰るって!」
裏切り者!
慌てるボクを置き去りにして、知紀くんはさっさと帰ってしまった。
知紀くんが最後に演奏した曲、……あれは何て言う曲だったんだろう?
「この曲は、拓海から先生にプレゼント……」
知紀くんがそう言って演奏を始めたとたん、なぜか楠見先生が顔を真っ赤にして俯いた。
耳まで真っ赤になっていた。
――えっ!? プレゼントって、何のこと?
先生は、なんで顔を真っ赤にしてるの?
この曲を知ってるって、こと?
ボクだけ何も知らないのが悔しい。
この曲って、テレビかなんかで聞いたことがあるんだけど……。
「知紀くん、何て言う曲なの?」
「ないしょ!」
知紀くんはにんまりと笑った。
その顔は、何かを企んでいるときの顔だった。
先生と2人きりにされて、ボクの心臓はまた忙しなく動き始めた。
「沢田……」
もう1度、名前を呼ばれた。
覚悟を決めて、ゆっくりと楠見先生のほうに向き直った。
先生は見たことがないくらい真剣な顔でボクを見ていた。
「お前、……秘密は守れるか?」
しばらく沈黙があって、楠見先生はボクにそう尋ねた。
先生の声が震えていた。
緊張が、ボクにも伝染する。
「……はい」
長い、長い、沈黙の後、そう答えるだけで精一杯だった。
ボクの声も震えていた。
先生の言う秘密が何なのか分からない分、妙な怖さがあった。
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