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少し離れたところで、親友たちが心配そうにこちらを見ていた。
今日は知紀くんの練習がない日だった。
ボクの家で宿題をする約束があったのを思い出した。
知紀くんと目が合ったので、「先に帰ってて」とお願いする。
「じゃあ、先に行ってるぞ」
知紀くんは、ユウくんを連れてボクの家のほうに歩いて行った。
2人が帰って行く後ろ姿を見送っていると、
「お時間、あるかしら?」
美華子さんの声がする。
威圧的な響きがして、なんだか嫌な気分になった。
美華子さんに連れていかれたのは、駅前にある喫茶店だった。
駅前の通りから1本入ったところに、こんな場所があるなんて知らなかった。
学校帰りに制服姿で立ち寄るのはどうかと思ったけど、美華子さんとボクでは姉と弟にしか見えないだろうと、高をくくった。
向かい合って座る。
彼女はホットコーヒーを注文した。
遠慮したボクには、勝手にオレンジジュースを注文された。
喫茶店なんて初めてきた。
古びた内装や使い込まれたテーブルが、いい感じの雰囲気を醸し出していた。
ものめずらしさから、辺りをキョロキョロ眺めていると。
「ケーキも注文すればよかったかしら?」
不意に声をかけられ、身構える。
「いいえ、結構です。お気づかなく」
緊張のせいで、堅苦しい口調になってしまった。
「へえ。あなた、大人びた物言いをするのね」
妙なところを感心される。
向かい合って座ったのは、やっぱり失敗だった。気まずくて仕方がない。
デートをドタキャンされたあの日、慧悟さんは教頭先生の紹介でこの田崎美華子さんとお見合いをした。
後日、慧悟さんは正式にお断りしたそうだ。
だけど、美華子さんのほうは慧悟さんのことを気に入ったようで、教頭先生にこの縁談をまとめてほしいとゴリ押ししたらしい。
こんな大切なことを隠していた慧悟さんを、うらめしく思う。
後で絶対にお説教だ。
美華子さんは、ボクの顔をまじまじと見た。
「可愛らしいお顔ね。……そこらの女の子よりもずっと可愛らしいわ」
褒め言葉を言っている割りに、彼女の目つきは険しい。
「可愛くなんて、ありません」
ボクの頭の中で、「可愛い イコール 子ども」と言われている気がして、なんだか悔しい。
「男の子に「可愛い」だなんて、失礼だったわね。ごめんなさい」
くすくす笑われて、バカにされた気がした。
それに完全に性格を見抜かれているようで、癪だった。
ボクは、美華子さんと対決する覚悟を決めた。そのために、彼女もボクに会いにきたはずだ。
だけど、手の内を知られてしまっている相手とどう戦ったらいいんだろう……。
勝てそうな気が、まったくしない。
だからといって、簡単に諦めるわけにもいかなかった。
勝ち目がないと思った瞬間、ボクの負けず嫌いな性格にスイッチが入った。
「慧悟さんはボクのものです。……だから、あなたには絶対に渡しません!」
美華子さんを真っ直ぐに見据えると、ボクは宣言した。
これが修羅場と言うのだろうか?
ボクは経験したことのない、ディープな大人の世界に踏み入ろうとしていた。
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