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満
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「悪い・・・坂谷!課題やんのすっかり忘れてた・・・メシおごるから答え見せてくんね?」
「烏童が忘れるなんて珍しいね。・・・いいよ、わかった。」
“わかった”が口癖の坂谷は、俺の小学校の頃からの同級生。人からの頼み事は何でもこなし、文句一つ言わず、断る事を知らない馬鹿がつくほど親切な奴だ。
親友でもなければ、他人っていうわけでもない。ただ、いつもつるんでるメンバーの中に必ずいた。・・・それくらいの薄っぺらい仲だ。
田舎暮らしの俺達は、クラス替えもなく、小中高と全く同じ学校に進学。特別仲がいいというわけでもないが、代わり映えもなく今もつるんでいる。俗に言う腐れ縁、というやつだ。
だが、高校生になってから決定的に変わってしまったことがある。それは、周りの奴らの坂谷に対する扱いだ。
・・・よく言えば便利屋、悪くいえばパシリ。昔もそうだったのかもしれないが、高校になっていきり立った周りの奴らは、従順な坂谷をいいように利用するようになったのだ。
「おーい坂谷!煙草きれたから買ってこーい。」
「んー・・・わかった。」
「金ないなら万引きしてきてもいいぞー。・・・なーんてな。」
「・・・わかった。」
冗談が通じない坂谷は、その日、本当に近所の売店から大量の煙草を万引きしてきた。相変わらず無表情の坂谷は、両手に抱えた煙草を見つめてから、パッと俺に視線を向けた。
・・・こいつは一体、何を考えているのだろうか。
「こ、こんなに万引きしてきてバレてねえの!?お前すげぇな!!」
「・・・うん、バレなかった。」
「昔からお前って器用貧乏っつうか、ほんとなんでもいうこと聞くし、何でもできるよなー?ほんと便利な奴。」
そう言ってほかの奴らは大笑いをしながら、群がって煙草を吸い始めた。気管の弱い坂谷は、そっとその場を離れて小さく咳をしていて、煙草を盗んだのは自分の意志でないことがわかる。
坂谷と同じようにその輪に入らない俺の方をじっと見つめて、何か言いたげに口を開いたが、そのまま俯いてしまった。多分、俺に“吸わないのか”と問いたかったのだろう。わざと坂谷の前で胸ポケットから自分の煙草を取り出して咥え、ライターで火をつけた。
「・・・坂谷、なんで万引きなんかしたんだ。高校で煙草吸ってる俺が言えた口じゃねぇけど、お前そんなこと進んでするやつじゃないだろ。」
「・・・皆に、頼まれたから。」
「じゃあお前は人殺せって言われたら出来んのか?・・・罪の重さは軽くても、犯罪は犯罪だからな?・・・あんまりあいつらのいうこと聞いてっと痛い目見るぞ。」
「・・・わかった。もう絶対しない。」
そう言って坂谷は、小さな声で『だから嫌いにならないで』と呟いた。・・・わけわかんねー。
「お前のことなんか、好きでも嫌いでもねーよ。」
「・・・うん。でも、ありがとう。」
何に対するお礼かはさっぱりわからないが、心做しか坂谷の表情は穏やかだった。
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