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お前の隣
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〈8、お前の隣〉
ざわざわと帰宅を急ぐ声で溢れる教室の中、孝太郎が話しかけてきた。
「悪い、今日一人で帰ってくれ」
「なんか用事? つきあうけど」
そうじゃないと首を振る。もしかして、
「昼間の女か」
「言い方考えろ。……時間がかかりそうなんだ。悪いけど先帰っててくれ」
しかめっ面のままはき捨てるように言いながら、少し苛立っているようだった。話をしてわからない女はしつこそうだなあとぼんやり思う。モテると言うのはなかなか大変だな。
「夕飯までに帰ってこいよ。飢え死にする」
去り際にそう言うとしかめっ面を少し和らげて微笑んだ。
そんなに寂しそうに笑わなくても。
本当に孝太郎は俺のこと好きだよなあ、と自意識過剰なことを考えた。
寂しく一人で昇降口に向かうと野田がいた。
「あっれー? 一人?」
「そっちこそ。部活は?」
今日は顧問休みだから部活も休み!とにかっと笑う。爽やかな奴だ。
「野田暇? せっかくだし遊ばねえ?」
「あれでも小さい妹いるんじゃなかったっけ。一人で平気?」
「俺んちくれば」
賛成、と野田が返事をする。楓も基本的に人見知りしないし、大丈夫だろう。
野田の能天気な気質と楓の天真爛漫なところがうまく波長があったのか、二人は最初から仲良く楽しそうにしていた。
三人でゲームをしながら遊んだりしていると、時間がすぎるのはあっという間で辺りはとっぷりと日が暮れてしまっていた。
「あ、もう八時か」
「時間平気か?」
「いやその辺は平気だけど、ナナ遅くね?」
確かに五時ごろ別れたはずなのに少し遅い気がする。男なので多少遅くても大丈夫だとは思うが、少し心配になる。
「こーくんおそいねえ」
「大丈夫なんかな」
後でケータイにメールでもするかと思うと、野田が立ち上がる。
「帰るか?」
「そーする。あわよくばナナの料理を食べたいと思ったけど無理そうだしな」
残念そうに笑いながらジャケットを羽織る。少し不服そうな楓に別れを告げた野田をマンションの玄関ホールまで見送った。
「それじゃまた明日。いつでも遊びに来いよ」
「楓ちゃんに次は負けないって言っといて」
じゃーなー、と爽やかに立ち去る野田の後姿を見つめ、外の突き刺すような寒さに震えた。
季節は冬、今に雪でも降りそうだ。
はやく帰ってくればいいのに。
ふうと白い息を吐き出し天を仰いだその時、視界の端、駐車場付近で何かが動いた。
「――す……わよ。それでも――」
「そんなこと――」
口論? しかも男女のもののようだ。そこそこ距離があり、会話ははっきり聞き取れない。女のほうは興奮しかなりヒステリックな声を上げている。男のほうには――見覚えが、あった。
そのまま、呆れた様子で男はゆっくりと女に口付けた。
幼馴染で、親友で、まるで家族のような男。
孝太郎の、キスシーンだった。
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