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大きなジャージ
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〈7、大きなジャージ〉
「さぶいよお」
「今日やべえわ。俺でも耐えられん」
昼休み。今晩は雪らしいとの情報をクラスメイトに貰って死にそうになった。寒さに強い野田も耐えられないのだ。ストーブの前は同じく寒さを凌ごうとする人の群れでごった返している。正直あそこまで行く余裕もないほど寒い。動きたくなさすぎて俺は小さく丸くなり震えていた。
なんだよ雪って。本気で止めろよ。俺は寒いのが本当に大嫌いなんだよ。神様の馬鹿野郎。
うんうん唸りながら寒さをやり過ごそうと必死な俺に、ふんわり何かがかけられる気配があった。
「着てろ」
ちょっと不機嫌そうな美形の男。何をかけられたのかと思ったら学校指定のジャージだった。胸元には七瀬と刺繍されている。
「おーあったかい」
「ナナ俺にはー?」
「ない」
少し大きめのジャージに袖を通すと本当に温かかった。少し和らいだ寒さにほっと一息つく。ナナのいじわる、樹ばっかり! そんな声が聞こえるが気にしない。孝太郎が俺に優しいのは昔からだし。
「あなたが甘やかすから樹が成長しないのよ! これじゃ何時まで経っても樹が一人立ちしないじゃない!」
野田がふざけて孝太郎に絡む。いいぞーやれやれーと周囲からも歓声が上がり実に楽しそうだ。当の孝太郎は本気で嫌そうにしているが。
「わーんママー、パパのこといじめないでよー」
「誰がママよ! パパよアタシは!」
「パパオカマなのかよ!!」
俺のツッコミに周りから笑い声が上がる。野田はまだぎゃいぎゃいと騒がしいが孝太郎も楽しそうにしているしまあいいか。穏やかな昼休みだなあと思いながら机に突っ伏した。誰が嫌いとか、誰が苦手とかがないクラスでよかった。すごい美形の孝太郎を僻む奴は結構多い。そういう奴がいるクラスだとこうしてのんびりも出来ないもんだが、今のクラスはおおらかで居心地がいい。
「でも樹のママは孝太郎だよなあ」
ふとクラスメイトの村田が呟く。周りからも確かにーと同調する雰囲気が流れていて、まあそうかもなあと俺も思う。料理は美味いし、心配性だし、なにかと気にかけてくれるし。
一応ノリでふざけてみる。こういうのも結構楽しい。
「ママー!」
「馬鹿」
駄々っ子のように手を伸ばすと叩かれてしまった。また笑い声が上がり、俺もまた声を上げて笑った。野田は「アタシのことはパパとお呼び!」と変に裏返った声で言うもんだからさらに笑ってしまった。
ふと孝太郎が気になって顔を見上げると優しい顔で笑っていた。あんまり顔には出てないけれど、心から楽しんでいる表情だ。なんだかもっともっと楽しくなってきてしまって、俺も顔を緩めた。
「七瀬君」
そんな時、孝太郎を呼ぶ声がする。クラスメイトの女子がドアの横を指差していた。そこには女の子が一人立っている。
またか。何度も繰り返される光景に少しうんざりする。なんだか水を差された気分だ。孝太郎も同じらしく、はっきりと顔には出さないが口元が少し歪んでいた。
周囲からごっしめーい、などの声を受けて孝太郎は教室を出て行った。
「流石モテるなあ」
誰かが零したその言葉が、魚の小骨のようにひっかかってとれない。
喉のひりつくような痛みに少し咳払いをした。
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