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②
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俺の目の前には、きれいに卵の乗ったオムライス。
世良さんの前には、パスタが置かれていた。
「…話したい時に、いつでも話してね」
そう言って、世良さんはコップに入った水を体内に流し込む。無理に俺の気持ちを言わせようとはしてこなかった。
(どうしよう……)
だけど俺は、いざ話し出すタイミングが分からず、ただ俯いて口を結んだ。
まず何から話せばいいのだろうか。
「………」
「おいしいよ」
場を和ませる為か、世良さんはにこにこと笑って、美味しそうにパスタを食べた。
でも俺は、このオムライスを食べることが出来ない。
この味、この料理は、一ノ瀬くんとの楽しかった思い出も、恥ずかしかった出来事も、嫌だったことも、幸せだった思い出も、全てが蘇るものだった。
そんなのは胸が苦しくなるだけで、言葉に詰まるだけだ。
(どうして……)
どうして今回に限って、世良さんは控え目なのだろう。
いつもなら、ケンカでもしたの?とか、何があったの?とか、色々聞いてくるくせに。
俺から口を開くなんて、難しかった。
「……陽裕くん?」
俺があまりにもだんまりとしているから、世良さんに声を掛けられる。
話したくない訳では無いから、わざわざ聞いてこようとするのだろう。
俺は言葉に困り、小さな声で世良さんに答えた。
「俺、何から話したらいいのか分からないです……」
「そうだねぇ」
世良さんは静かにフォークを皿に置く。
色々なことを考え過ぎて、何を言えばいいのかも分からなかった。
「…じゃあ、まずは、遥斗くんと何があったのか教えてもらえる?」
年上の余裕とでも言うのだろうか。
世良さんのその笑顔に、俺は何でも話してしまいたくなった。
初めは、この笑顔もあんなに嫌いだったのに。
「はい……」
俺は俯きながらも、頷いた。
それから、一ノ瀬くんとの出来事をゆっくりと話していく。
それと同時に、一ノ瀬くんとの思い出も鮮明に浮かび上がっては、俺の胸を締め付けた。
「…俺、最近、余計なことばかり考えてしまって……それで、一ノ瀬くんを傷付けてしまったんです……酷い態度も取ったし、酷いことも言いました……」
俺は何かに堪えるように、膝の上で拳を作った。
「具体的に?」
世良さんが聞き返す。
もっと前から一ノ瀬くんに嫌な思いはさせていただろうけど、最初は、昨日の朝の出来事だ。
「一ノ瀬くんの気持ちは知っていたのに、一ノ瀬くんを拒むような態度を取ったんです……一ノ瀬くん、困ったような顔してました……」
それなのに。
それなのに俺は、気の利いた嘘の1つも吐けなくて。
結果的には一ノ瀬くんを傷付けるだけだった。
あんなものは、本気で嫌がっていた訳じゃ無いんだ。
「何したの?」
「…キス……を拒んで……」
「そっか」
無理して先を言わせない為か、世良さんはすぐに言葉を返した。
そして、他には?と、立て続きに問い掛けられる。
俺は素直に答えた。
「嘘、吐いたんです……触れて欲しくないって、嘘言って……嫌だとか、好きじゃないとか……」
一ノ瀬くんの言葉を聞きたくなくて。
一ノ瀬くんが何かを言いたげだったのにも気が付いていたのに、逃げた。
ちゃんと聞いてあげれば良かった。
そうしていれば、今のこの状況だって、変わっていたかもしれない。
一ノ瀬くんのことを否定して、ただ一方的に言葉を投げ付けた。
俺は本当に勝手で、我儘で、最低な奴だ。
もう思い出したくもなくて、俺は咄嗟に両手で顔を覆った。
(駄目だ……こんなところで泣いたら……)
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
本当にごめんなさい、一ノ瀬くん。
全部嘘です。
触って欲しくないなんてのも、好きじゃないなんてのも。全部全部、嘘だから。
今更そんなことを思っても、もう遅いんだ。
分かってる。
分かってるけど。
「…ごめんなさい……っ」
喉の奥が痛い。
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