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複雑な1日目にしおりをはさみました!
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複雑な1日目
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自転車のペダルが重い。
空気が抜けているのか、タイヤがずりずりとゴムの摩擦の音がする。
朝の冷たい空気が頬を撫でるとまだ治っていない傷が痛む…
朝がどんよりと痛かった。
「おはようございます……」
スタッフルームに顔を出すとビクッとした店長が顔を上げた。
「お、おはよう、雄大君。」
何か言いたげな店長の前を通り過ぎた。
開店の準備をしているといつも通り、遅れて野上がやってきた。
「はよーございます。」
携帯をいじりながら、濃い化粧の匂いを振りまいて。しかし、今日はまだいい。ヒドイ日は頭が痛くなるような甘ったるい匂いをさせている。
昼までは挙動不審に自分の周りをチラチラする店長といつも通り無関心に、能面のような顔をした野上と過ごした。
昼休み
「お疲れ様です!」
5個入りの小さなクリームパンを食べているとバーンと大きな音を立てて、牟田が入ってきた。
「お疲れ。」
「あっ!クリームパン!」
「…食べる?」
クリームパンに目を輝かせる牟田に雄大はケースごと牟田に押しやった。
「いいんですか?」
「どうせ1人じゃ食べ切れないし。」
「ありがとございます。いつもすみません。」
言うよりも先に手が伸びる牟田に雄大はドキドキしていた。
(牟田さんは僕が辞めるの知ってるのかな?)
野上が普段通りだったので、店長はまだいってないのかな?と半日思っていた。
「?どうしたんです?顔の傷もそうですけど、今日は一層、顔色悪いですけど?」
雄大はドキリとして顔を上げた。
「えっ?そう?」
「辞める事ですか?」
さらりと言って、牟田はクリームパンを口に放り込んだ。
雄大はぽかんと口を開けていた。
「店長の事は気にしなくていいですからね。あぁやって、オロオロした顔をして、同情誘ったんですよ。椿さんの好きなようにすればいいんです。」
「う、うん。」
牟田は更にクリームパンに手が伸びた。
「椿さんは優しいから、人の顔を見ながら言葉を選び過ぎなんですよ。たまには自分の意思をぶつけないと!」
(自分の意思…)
「あとぶつけたら後悔しない事ですよ!そんなキツイそうな顔をしないで下さいよ!いつだって、撤回してもいいんですからね!ご馳走様でした!」
ロッカーに荷物をぶち込んだ牟田は大きな足音をさせて、スタッフルームを出て行った。
「でも、あの時、僕は成康さんの顔を見てなかった。。」
驚いたような顔の成康は覚えている。
だけどあとは涙でグチャグチャになった目で全く見えなかった。
自分をぶつけるだけで精一杯で、成康の顔なんて見てなかった。
どんな顔をで自分を見ていたのだろうか?
もしその顔に悲しみが浮かんでいてさえくれたら…
(後悔……)
その言葉が自分をジワジワ、追い詰めてくる。
雄大は空になったクリームパンのケースをぐしゃっと握った。
「撤回なんて…できないよ。。」
テーブルに置いていた携帯は昨日から電源を切っている。
まだ何かを期待してしまう自分がいるから。
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