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渋滞の車にしおりをはさみました!
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渋滞の車
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「いや、だから……」
プッーーー
大きなクラクションの音に耳を塞いだ。
「すげー車混んでるなー。」
「クリスマス前の休日ですもん。うちも忙しいだろうな…じゃなくて!これ!」
「これ?俺の車。来月車検なんだよねー。」
「違うっ…」
「何?行きたくなの?」
ハンドルを握っていた黒田が、急に雄大な顔を向けた。
「うっ….」
雄大はおずおずと助手席で小さくなった。
黒田は流していたロックの曲を止め、小さな音でラジオを流し始めた。
「あいつがお見合いするって知ってた?」
「….まぁ….でも今日ってのは知らなかったです。近々とは聞いていたのですが…」
「ふーん。」
淡白な答えに肩透かしを食らった感じで、ぎゅっと服の裾を握った。
「だから….まだ心の準備が…」
「何の準備??」
「えっ??」
顔を上げるとイラついた様子で、黒田はハンドルを人差し指でカチカチ叩いてた。
「加藤はさ、馬鹿だよねー。」
「馬鹿…」
「あれははっきりいってただのヤケクソだよ?んでもって、それをわかんない雄大君もやっぱりどっか抜けてるよねー。一番悪いのは加藤の腑抜け野郎だけどな。まぁな、あいつが戸惑ってるのはわかる気がするんだよ!」
黒田ははぁっーと、ため息をついた。
「戸惑う?」
オドオドと見る雄大の目を黒田は、ぎらりと睨んだ
。
「あいつはね、多分今まで、こんなに自分に戸惑ったこと無かったんだと思う。」
「えっ?」
車がナメクジくらいの速度で走り出した。
「加藤はさ、顔がいいじゃん。性格も温厚だし、正義感や責任感もある。顔がいい上に真面目。絶対、今までは、自分が想うより先に相手が好意を寄せてきたと思うんだよ。」
「で、でも、去年のクリスマス前には、振られてましたよ。」
「あぁ…あれね…あれは多分……断れなかったんだと思う。。」
「えっ??」
また車が止まった。
「あの頃、あいつは社内の女の子、色んな子に声かけられていて、困ってたんだと思う。そこで同期の合コンに誘われて、付き合うことになったんだと思う。。」
「でも家庭的でいい子だって!なんか…デレデレしてました…」
雄大はシュンとシートに背をつけた。
「俺たちには惚気たりはしなかったな…。でもモールに行った後からはデレデレして、締まらない顔してたな。」
「えっ?」
黒田は何かを思い出すように眉を寄せて、口を開いた。
「あの頃のあいつはやたらウキウキしてたから、彼女とのクリスマスだからかな?と思っていたけど、”家庭的で良い子ですよ”しか言わなかった。んでもってクリスマスの予定は入ってると言って、女子達を遠ざけた。」
「はぁ?」
「しかしあいつは振られた事を一言も言わなかった。それもこれもずっとニヤニヤしてたから、みんなはうまくいってると思ってたんだよ!」
「……何で僕には….…」
「まぁ、客と店員じゃあ中々、仲良くなるきっかけってないしな。プレゼント選びとかならいい口実だよな。」
黒田がじっとこちらを見て、雄大は目をパチクリとさせた。
「うんうん。わかるよ。お前の顔は可愛いもんな。一目惚れしてもおかしくないわな。」
黒田は頷きながら、再び前を向いた。
「お前と…知り合ってからのあいつの1年は、あいつが入社してから初めて見るポカや、項垂れようや、ニコニコ顔をしてたよ。今までロボット並みに表情が読めなかったのに、生理前の女子みたいだったよ。」
「く、黒田さん!」
黒田の言葉に雄大はあせあせした。
(でも…)
心の底がぽっかり暖かい。
「お前らさーー。」
顔を上げると黒田がくしゃっと笑った。
「お互いを想いすぎて、バカな行動してんだよ!」
「……わっ!」
バシッと背中を叩かれた。
「しっかたないから、俺がこうしてお前らのケツを叩いてるわけ!!」
再び前を見る黒田は照れたような横顔だった。
「……なんで…黒田さんはそこまで?」
「……」
黒田はぎゅっと唇を噤んでいた。
「黒田さん?」
雄大は覗き込むように首を傾けた。
「やっべ…」
「へっ?」
黒田が焦ったように窓の外をぐるぐる見始めた。
「やばいぞ…この線は……」
「線は?」
雄大も前を向いた。
フロントガラスの向こうに緑の看板が見えた。
「高速の入り口だーーー!」
「えっ?えっーーー!横、横に入って下さい!!」
「わぁーー!混んでるー!入りにくいわー!ちょっと窓開けて、手ェ振れ!!」
「はいっ!!!」
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