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6章-p3 作戦にしおりをはさみました!
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6章-p3 作戦
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リラレルは駆け出すと同時に両手を瞬時に剣のように変化させた。そして地をけって軽やかに飛び上がると、舞うように回りながら身をすくめたエヴィンの体の上を両手の剣で切りつけながら後方へと着地する。
剣は体を数度かすめたものの、エヴィン体は黒いモヤに包まれておりどの程度切りつけたのかは分からない。エヴィンも何事もないような顔で背後に回ったリラレルの方へゆっくりと向き直る。
エヴィンがふと背中に違和感を感じると、そこには無数の小さな白いわたのようなものが付いていた。エヴィンがはっとしてめを見開いた瞬間、白いわたはドドドドと連なり爆発をおこす。エヴィンは崩れるように縮こまった。
エヴィンから上がった爆煙はたちまち周囲に立ち込め視界が悪くなった。
リラレルは煙の中で目を凝らす。
…ひゅっ、と色の違う空気が髪先を揺らしたと思うとリラレルは微かに体を後ろへと逸らした。
瞬間、エヴィンの大きな爪が襲いかかり、リラレルの腹を掠る。巨体のエヴィンの爪の一つにでも当ればリラレルの体は真っ二つに裂けてしまうところだろう。それを瞬時に避け、リラレルは更に後ろへと跳んだ。
エヴィンは体を回転させ、煙を巻き上げてからその煙を払うように体を震わせた。
先程から体を覆っていたモヤまでもが払いさらわれ、バケモノの姿があらわになった。
大樹の大きさと変わらない黒き巨体、それをささえる太く長い4本で大地に立ち、その先にある爪は人など一瞬で切り裂けるほど鋭く大きい。突き出た鼻先、その下から裂けるように大きく開いた口には、尖った歯が音を鳴らして噛み合う。後頭部から耳とも角とも取れる突起が2つ伸びており、瞳のない目は赤く細長くどこを見ているの予測できない。グルルル…と低い声で唸っている姿は、まさにバケモノと呼ぶにふさわしい獣の姿だった。
リラレルの姿を捉えたエヴィンは、前足で地面を引っ掻くように大きく振り下ろした。たちまち地面は衝撃波と共に3つの爪の通りにえぐれ、土と混じった大きな岩がリラレル目掛けて大量に飛んできた。リラレルは避けるために後ろへ後ろへと飛んだが、繰り返される攻撃に砂と岩の量は増し、一つ大きな岩に当たり弾け飛ぶように地面へと叩きつけられる。
好機を逃さなかったエヴィンは、すかさずリラレルをその鋭い爪で捕まえ地面に縛り付ける。みしみしと圧を加え押しつぶそうとすると、リラレルは口の端で笑った。
嫌な予感にほんの少し身を引いたがその瞬間、リラレルを捕まえていたエヴィンの腕は先程以上の無数のわたが発生した。そして立て続けに地面を揺らすほどの大爆発を起こした。
衝撃に後ろに倒れそうに反り返ると、目の前でリラレルは片手を巨大な剣にして飛び上がっていた。剣に妖力を注ぎ込み、爆発させた腕の付け根を狙い勢いよく振りかざした。
どかっ、と大きな音がしてエヴィンの片腕が切り落とされる。倒れはしなかったものの、悲鳴を上げながらよたよたと後ずさりをした。
「あら、意外と弱っているのね。」
華麗に着地したリラレルは、腕を元に戻しエヴィンを睨んだ。
「くっ…、もう少しで完全体になれるというのに。この毛玉ぁぁ!!」
エヴィンは憎しみを全面に押し出すように吠え、リラレルを威嚇した。
「まだ完全体ではないということは、ヌメリを救う方法はありそうね。」
そう言ってリラレルが再び攻撃を仕掛けようとした時だった。
エヴィンは「ごおおぉぉおっ!」と地響きと共に声を上げた。
そして、大量の妖力をその身に纏い回転させ始めた。
それは徐々に周りに風を起こし、やがて砂や小さな葉がエヴィンを包むように舞い始める。どんどんその威力は増し、木や大きな岩までが吸い込まれるように巻き込まれてゆく。
リラレルは早々にその場を離れ、ザムシル達のいる場所へと戻った。
森の奥で戦闘の様子が見えず心配していたザムシルはリラレルの姿を見て一安心した。
「リラレル様、ご無事で。」
「もっと離れて、あいつやけを起こしたみたいだから。」
目前には竜巻のように巻き起こる強風が、徐々に範囲を増し、木々や大岩、地面さえもお構い無しに削り取ってゆくのが見えた。
「馬鹿げた攻撃だ、巻き込まれたらひとたまりもないぞ。」
ザムシルは誰に話すでもなく、その光景をひと睨みするとダードとエシを担いでその場から距離を置くために走り出した。
エヴィンが起こした嵐は止むことを知らず、街一つ分を取り込む程の規模にまでなった。
その攻撃に巻き込まれない位置まで下がった4人だったが、そこでも小さな岩や砂ぼこりが激しく飛んでくるほどだった。ザムシルは雷を操り網状にして盾を作りそれを防ぎ、3人はザムシルの盾の中でただその嵐を眺めていた。
「くそっ、これじゃあ手も足も出ねぇ!」
エシは悔しさの滲む顔で強風の塊を睨んだ。
「それがあいつの作戦なのよ。もう少しで完全体になれる…そう言ってたわ。きっと、このままヌメリの体を完全に自分のものに支配できるまで誰にも近寄らせないようにしたいのよ。」
「リラレルでも何とかできないのか。」
ダードも少し悲しそうな顔でそれを眺めていた。
パチリ、パチリと電流が砂ぼこりを跳ね返す音が小さく響く。
「少し動きを止めることは出来るだろうけど…あ!」
リラレルは思いついたように手を叩いた。
「ダード、あなたの左手使えないかしら?」
いい案を思いつたと笑顔をリラレルの提案を聞いて、表情を曇らせたのはザムシルだった。
「危険すぎます。それに、コイツのはちゃんと打てるかどうかも曖昧なんですよ。」
否定的なザムシルに対して、ダードは一歩前にでて左手の手袋に手をかけて、「やってみよう。」と言った。
「あら、勇敢ね。」
「…」
視線を逸らしたザムシルの肩をダードがポンと叩いた。
「リラレルの提案だ。きっと間違いない、そうだろう。」
「軽々しくリラレル様の名を使うな。お前が納得しているのならそれで構わない。ただし、必ず成功させろ。」ザムシルは視線を合わすこと無くそういった。
「分かってる。」とダードは小さく答えた。
リラレルはその様子を見てうなずいた。
「じゃいいかしら。私が少し前にでてあいつの動きを止めるわ。ただ、ずっと止めていられるわけじゃないから注意してね。その間にザムシル、ダードを抱えてあいつの所へ行って頂戴、距離は私が詰めてあげるから。」
「了解しました。」
ザムシルはリラレルの目をしっかりと見据えて小さく頭を垂れた。
「着いたらドーンと1発かまして、いいかしらダード。」
「ああ、やってみる。」
ダードもリラレルを見てうなづいた。
「あ、あの〜オレは?」
申し訳なさそうに小さく手を挙げたのはエシドゥルフだった。
「だからお前は村で待っていればよかったんだ。お前はどこかの木の裏で隠れていろ!」
ザムシルがイラつきながら地面を足で踏み鳴らすと、エシは肩を落として「はい。」と小さく返事をした。
リラレルは「そう、気を落とさないで。ヌメリが戻った時貴方がいた方が安心するもの。」と肩を抱いた。
それを見ながらイラつきを高めていたザムシルに、ダードは「俺もああしてやろうか?」と聞くと、「これが終わったら俺の気の済むまで相手しろよ。」とザムシルは低い声で脅迫じみた視線を送った。
「ああ」とダードは少し困ったように笑った。
リラレルはザムシルの盾をするりと抜け、強風をもろともせずに走り出した。強風に吹き飛ばされないギリギリの位置につき、地面に思い切り自らの腕を黒い針のように変化させて突き刺した。ただでさえエヴィンの攻撃でボロボロの地面には、リラレルの攻撃によりピキリと鳴りより大きなヒビが入る。
ザムシルはいまだ盾を展開し、その時を待つ。
ダードは手ぶくろを外してポケットの中に押し込んだ。エシは既にさらに後方のおおきな木の裏へと避難している。
「なあ、ザムシルお願いがあるんだけどいいか?」
そう切り出したのはダードだった。
「なんだ。」ザムシルはぶっきらぼうに返事を返す。
「リラレルとの契約でもこの指は治らなかった。だから、またこれは短くなるんだと思う。そしたら、もう使い物にならなくなりそうだから何か不便な事があったら手伝ってくれよ。」
ザムシルはそれを聞いてふふん、と笑った。
「心配するな、たとてお前の手足が全て吹き飛んだって俺が介抱してやる。初めからその覚悟があってお前と付き合っているんだ。俺の覚悟を甘く見るなよ。」
「ははっ、頼もしい限りだな。」
ダードも笑い返した。
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