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8章-p1 君と行きたい場所にしおりをはさみました!
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8章-p1 君と行きたい場所
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出発はまだ日も登らない早朝になった。なにせ目的地まではそれなりに時間がかかるからだ。
予定では1泊2日の小旅行。
ザムシルはさほど大きくもないリュックを背負い、ダードはいつも通り手袋以外何も持たなかった。
玄関先でリラレルが忘れ物は無いかなどせかせかと心配しながら2人を見送ってくれた。
「予定よりゆっくりしてきてもいいからね!どうせなら1週間くらいなんてどう?あー、それは今回のが終わってからかしらね?勘違いしないでね断じて2人が居ない方がいいとかそういうのじゃないのよ!」
ザムシルが少し控えめに「そろそろ出てもよろしいですか」と尋ねると、リラレルはハッとしてから手を緩やかに振った。
「行ってらっしゃい、2人とも!」
「ああ、留守はよろしく頼む。」
「では、お暇をいただきます。」
リラレルに深々と頭を下げたザムシルの耳元にリラレルはすっとくちびるを近づけ、ダードには聞こえないように「うまくやるのよ。」と小さく囁いた。
そして、ザムシルはダードと共に家をあとにした。
リラレルは爽やかに2人を見送った後、家の中に入り何かバタバタと自室を漁る。少し経つと小さなポシェットを肩からかけ玄関から出てきた。
何事かと集まってきた小妖魔達を見渡すとしゃがんでからこう言った。
「じゃ、私も出かけてくるからお家のことよろしくね!」
何処に行くのか尋ねられると、リラレルは「決まってるじゃない」と言うと嬉しそうに笑った。
2人はまず森を抜けいつも行く街まで歩いた。そして、馴染みの街並みを抜け、しばらく歩くとダードが知らない街並みへと至った。それからもザムシルに導かれるまま2時間程歩き続けたが2人とも大して疲労は感じなかった。以前の旅と比べ、道にしても距離にしても、とても簡単に感じる旅だった。
ダードは土地勘がないため見慣れない場所に入るとキョロキョロと興味ありげにいろんな場所を見渡していたが、ザムシルはずんずんと早足で目的の道を進み続けた。
「詳しいんだな。」
「時間があれば歩いてみたりしているんだ、自分の住んでいる土地を知ることは重要だからな。」
ダードは相づちを打つと、たまにどこかへ出かけていた時はこうやって色々な場所を知る為に歩いたりしていたのかなと想像した。
今回はずっと街の中を進んだ。人によって慣らされた道がこんなにも歩きやすいんだなと、ダードは少し感心していた。しばらくすると、馴染みの街よりも発展のうかがえる街並みが見えてきた。地面には色のついたレンガやガラス細工のようなものが敷き詰められ、周辺の家もレンガで作られているものが多い。それどころか、ただの住居と言うには鮮やか色合いや華やかなな装飾が着いていたり、屋根の下にみえる窓の近くには花が飾られたりしている。
「なんだか、土地も変われば街も変わるんだな。」
「ど田舎の小僧らしい発言でよろしい。」
「田舎...」
「こちからかすればサールなど全域ど田舎だ!サールに住む亜人共は人間を拒み、発展を拒んだ。ゆえの技術発展の差は100年といっても過言ではないだろう。伝承とは異なり、今ではあちらの方が古代の地と言えよう。」
ダードは綺麗な街並みを見て、そういうものなのかとザムシルの解説を受け入れた。
しばらくして人が多く集まる場所に着いた。
丸い広場になっているその奥に、人々が集まる原因があるようでそこは一層人でごった返していた。
ダードはもちろんそんな場所に来るのは初めてで、そこにあったものにも非常に驚きしばらく呆然としていた。
「おい、口が空いているぞ。とんだ間ぬけ面だな。」
「あれは、なんだ?」
広場から少し高く作られた台のような場所にに人が列になって並んでいる。簡易な屋根の辺りからは火の手が上がる訳でも無いのに、黒い煙が立ち上る。
「鉄道は初めてか?まあ、サールには無いからな。」
四角い鉄の乗り物に人々が入っていく、先頭には少しかたちの違う鉄鋼車がありその煙突から煙は出ていた。いわゆる汽車である。
「あれに...乗る?」
「座っているだけの気楽なものさ。さあ行こうか。」
ザムシルは少しはしゃいでいるようにも見えた。ダードはそんな楽しそうなザムシルを見られて何だか得した気分にもなり、初めての乗車で不安な気持ちも吹き飛んだ。
車内に入ると車内は思っていたより広く、人も苦しいほど多い訳ではなかった。そして、柔らかいとは言えない椅子に腰掛ける。
「先は長いから気を楽にしておけ。」
ザムシルにそう言われ、ダードはうなづいた。
列車は固く揺れ続け決して乗り心地のいいものではなかった。
それでもダードは窓から流れる景色に感動し釘付けだったし、こんなに早く地をかける物があるのかととても感心していた。
ザムシル乗車経験がある為か汽車自体には大した興味は持たず、向かいに座っていた老人や車内を巡回する列車の職員とよく話をしていた。
向かいの老人から「兄弟でお出かけかい?」と尋ねられるとザムシルは「いや、こいつはオレの恋人だ。」といつもの如く堂々と返していた。老人は信じてか冗談と思ってか「いいねぇ、幸せそうで。」と薄い目を更に細めて微笑んだ。
列車は駅に着くと止まり、再び動き出す。それを幾度か繰り返して車内の人も徐々に減ってきた。
向かい老人が軽く会釈をして下車した姿を見て、ダードは少し不安になり「まだ降りないのか?」とザムシルに聞いた。
ザムシルはニヤリと笑った。
「まだ降りんぞ。残念だが、オレ達の目的地は終点だからな。」
「終点…?」
かくして、列車は終点へと到着した。
途中で見かけた砂の大地や、近未来的な都市でもなく、のどかな森でもなければ、城のある街でもない。
時間をかけて到着した場所は固く切り立った岩山がそびえ立つ、人気の少ない土地だった。
列車から鈍った足で降り立ったダードは周りを見渡したがその場所がいったいどんな所なのか検討もつかなかった。
駅をおりても、砂利の広場とさほど密集していない木々が点々と生えているだけ。駅から真っ直ぐの道には車輪の跡がいくつもあり、向こうに古びた看板のようなものが見えた。そちらからなのか機械音や何かをしている作業音も聞こえる。到底楽しいような観光地には見えなかった。
駅員と話し込んでいたせいで後から来たザムシルが、ダードの横に来た。
「とりあえず無事に到着したな。」
「...ここは?」
ザムシルはダードの背を押し、前へ進むように促した。砂利の道を進み、視界が開けてくると人の姿が増えてきた。岩山がすぐ目の前見え、その麓には無数の洞窟ができている。
そこを行き来する人々はみな一様に頭に固い帽子を被り、土で汚れた服を着ていて、強靭な男ばかりがいるように見えた。あるものは土を押し車で運び、あるものは尖った金具の着いた棒を持ち洞窟へと入る。
「鉱山さ、鉄や石炭なんかも掘っているらしいがここの1番の売りは鉱石らしい。」
そう言ってザムシルはダードの左手を持ち、手の平を手袋の上からとんとんと指で軽く叩いた。
ダードははっと気がついて思わずザムシルの顔を見た。
「来たいって言ってたろ。お前の持ってる石みたいなのが採れる所。」
「うん、来てみたかった!」
ダードは急にこころが踊るようだった。子供の頃手袋の中にある石を見つけた時から来たかったというのもそうだが、そんなくだらない話をザムシルがちゃんと覚えていてくれたことが何より嬉しかった。
ダードがそう返事をして少年のように笑うと、ザムシルもほっとして口元を緩めた。
ザムシルは今にも走り出しそうなダードの腕を引くと、近くにあった小屋へと誘導した。
「見学したり走り回りたい気持ちはわかる。たが、まずはここの管理者に話を付けるのが先だ。」
つまりは、見学の許可と言った所だ。
小屋に入ると、机と同化しながら寝こけている男にザムシルが声をかける。男ははっとして起きると気だるそう対応してくれた。
「はい、これヘルメットかぶっててね。鉱石が出るのはここから東側ね。観光担当は緑の服来たやつだから声かければ見せてくれるよ。あとこの隣の小屋だと宝石加工と、金細工もしてる。赤い看板のあるところは入らないでね、死んじゃうかもしれないから。」
「金細工って言うのも興味あるな。俺にも石を掘らせてくれるかな。なぁ、よく知らないんだが鉱石ってたくさん種類があるのかな。」
ダードはヘルメットを被りながら、珍しくやや早口で話していた。
「さあな、詳しいことは専門家に聞いて来いよ。...なんだが、やっと年相応のはしゃぎ方してるなお前。」
ザムシルはヘルメットの上からダードの頭をポンと優しく叩いた。
早く行こうとダードが急かすが、ザムシルはヘルメットを被らなかった。
「悪いが先に見ててくれないか、泊まれる場所とか色々話を付けておきたい。」
ザムシルと一緒に行きたい気持ちもあったが、好奇心が勝ったダードそれを承諾した。
「分かった。先に見てる。」
ダードはそう言うと駆け足て小屋を飛び出して行った。
ザムシルはダードの後ろ姿を見送ると、再び気だるそうな受付の男に向き直った。
「...で、頼んだものは出来上がっているんだろうな。」
そう聞かれると男は少し背筋を伸ばした。
「ええ、出来てますよ。でもダンナ珍しいですよね、あの石で作るなんて...本当に良かったんです?」
「ああ、あの石がいいんだ。」
ザムシルはそう言うと深くうなづいた。
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