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疑問
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「……っ」
「声を出すな。暴れるな」
羽交い締めにされ、喉元に冷たいものが当てられる。月明かりに煌めく、その鋭利な刃物に体がすくむ。
反抗する意思はないという意味で、両手を上げる。最も、押さえ付けられているから最小限な動きしかできないけれど。
「…安心しろ、殺しはしない」
全く安心できない。こういうとき、身を守る術を得たいと感じる。俺は…とても、弱いから。
主人に従順であるように躾られたせいもあり、滅多なことがなければ俺は抵抗しない。いや、できない。一般的な男性よりも腕力はないだろう。
…フィリオを殴ったあと、実は俺の方がダメージが大きかった。手の赤みがひかない。
「お前の名前を教えろ」
「…ニィノ」
「そうか」
俺を押さえつけている人物は、男性だろう。体躯も声も、俺よりも力強く、こんなときだが、羨ましく思えてしまう。
……そもそも、この人物の目的は何だ。殺さないと言っていたけれど、じゃあどうするんだ。誘拐?身代金…?そこでフィリオ関連かとも考えたけど、それこそ意味が分からない。だって、フィリオにとって俺がそんなに有用だとは思えないから。あの人なら不当な要求なんてはねのけてしまうだろう。
「あの…」
「なんだ」
「俺のことをどうしたいんですか」
「……」
「誘拐、とか?」
「……」
無視。まぁ、そう簡単には教えてくれないか。
「…お前は…、」
男が口を開いたとき、何やら騒々しい音が聞こえてきた。誰かが口論する声と、靴音?
「ニィノ!!」
「…っ、フィリ、」
「貴様!俺の所有物に勝手に触れるな!ニィノ!お前はなぜ他の男に触られているんだ!」
え、理不尽。
俺は不可抗力というか、この状況でそう言い放てるフィリオはある意味すごいかもしれない。
「……主の命令です」
「おい!今すぐやめさせろ!」
フィリオが後ろを振り向き、怒鳴る。
すると、盛大なため息と共に、後ろにいた人物が手をあげた。
「ギル、もういいよ。離してあげてくれ」
「はい」
すると、あっけなく俺を解放した。
……本当に、何なんだ。
「ナサニエル、貴様は金輪際この屋敷に立ち入らせない」
「酷いなぁ。フィリオが快く見せてくれれば、僕だってこんな野蛮な真似しないというのに」
「黙れ。釈明は聞かない。失せろ」
「はいはい、分かったよ。来訪はまた改めるとしよう」
「来るなと言っている。貴様の耳は飾りか?」
「ギル、帰るよ」
「はい」
そして二人は何事も無かったかのように去っていった。俺はへたり、と床に座り込み、フィリオを、ぼんやりと見上げる。
「ニィノ」
フィリオが近づいてくる。
どうやら俺は、結構怖かったようだ。
立ち上がることができない。
「おい」
「わ…っ」
突然手首をとられ、無理矢理立たせられた。
「無用心にも程があるぞ、お前は!」
「ど、怒鳴らないでください!」
「お前が悪い!」
「な、なんでですかっ」
何だか次第にムカムカしてきた。
どうして被害に遭った俺が怒られないといけないんだ。
「急に入ってきたんですよ!俺は、そんなに強くもないし、怖かったんです!」
「少しくらい抵抗しろ!従順すぎる!」
「悪かったですね、そういう環境で生きてきたもので!色々と恵まれていたフィリオには分かんないだろうけどっ」
精一杯噛みつくが、涙声になってしまった。
どうして、俺はこんな目にあわないといけないんだ。
「……」
「……」
沈黙。情けないことに、俺の鼻をすする音だけが響く。
「……ニィノ」
「……何ですか」
「悪かったな」
「え」
きょとん、とフィリオを見つめると、フィリオは手を離し、俺に背を向ける。
「あの馬鹿が強行手段に出ることくらい予測できたはずなのに、お前を一人にした。そこは悪かった」
「…」
怒ったかと思えば、自分の非をあっさりと認める。本当に変わった人だ。
「だが、お前ももう少し危機感を持て」
「……はい」
渋々返事をすると、大きなため息を吐かれた。
もしかして本当に心配をしてくれていたんだろうか。だとしたら、優しさも持ち合わせているのかも……
「それと…勝手に触らせた罰を受けてもらわないとな」
前言撤回。
やっぱりこの人には優しさなんてない!
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