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バイトを終えて家に帰ると、玄関に見覚えのある人影が見えた。
椿は目を見開くと慌てて駆け寄る。
「おかえり椿くん。」
「智さん?!いつからここに?!」
「ん?ついさっきだよ。椿くんはバイト?」
「え、えぇ……。連絡してくれたら良かったのに」
昨日とは違う姿の智は既に家に一度帰ったのだろう。
白いパンツにTシャツ、薄手のカーディガンという出立ちだ。
相変わらずシンプルなのにおしゃれに感じるそのファッションを見て、椿の心臓は新鮮そのものの反応をする。
「連絡したら面白くないかなって思って。」
智がニコニコしながらそんなことを言う。
椿は苦笑いしながら鍵を取り出した。
この人のたまに垣間見えるこの可愛さが本当に愛おしいんだけど、俺はどうしたらいいんだろうか。
なんとなく抱きしめたくなってしまう。
椿は誤魔化すように微笑んでから鍵を開けた。
「……そんなことないですから。ていうか……家に帰らなくていいんですか?」
「ん?んー、お邪魔します。」
「駄目ですよ帰らなきゃ。」
確かに会ってくれるのは嬉しい。
だけど……。
椿は自分の両親を思い出した。
一人っ子だからというのはあったが、父親はいつも定時に帰ってきて母の手伝いや自分を構ったりしてくれていた。
そういう父が大好きだと母も言っていたのだ。
それに、そういう環境に置かれていた自分も幸せだった。
それがわかっている椿は子供のためにも帰ってほしいと思ってしまうのだ。
「どうして?」
「だって、お子さんいらっしゃるんでしょう」
「大丈夫だよ。僕の子供はもう中学生を卒業する年だからね。父親なんて煙たがって相手してくれないしむしろいない方がいいと思ってる。」
「そんなことないでしょう。」
智が家に上がると椿を振り返る。
椿は靴をぬぎながら眉を八の字に歪めた。
悲しいこと言わないで欲しい。
居ない方がいいなんてそんな。
「ほんとだよ。」
なんでもないみたいに笑って、本当に気にしてないみたい。
智さんは何やら持ってきたものを部屋の隅に置きながら椿を見た。
「奥さんだって帰ってきて欲しいと思ってるんじゃないですか?」
「うーん、どうかな。僕らそんなに仲良くないんだよね。」
嘘なのかなんなのか知らないし、気遣いかもしれない。
でも、そんなに言うならその人と一緒にいる必要性ってないんじゃないの?
何でもないことのようにいう智に椿は目を細めた。
「……そんなに言うなら僕と一緒になってくれればいいじゃないですか。」
無理、なのは分かってるんだけど。
智さんが言ってるのはきっと感情でどうにかなる問題じゃないことを言ってるんだと思う。
「それとこれは別の問題。」
にこりとしながら智がいう。
分かっていたけれど。
実際に返ってきた言葉に椿は頬を膨らませた。
「……なにそれ。」
「拗ねてる?」
「拗ねてます。」
当たり前だろ。
そう言いたげに智を睨めば、智は参ったというように笑った。
この人は本当に俺の事考えてるんだろうか。
拗ねる、というかムカつく、というか。
なんだろう、こんなにも俺は智さんのことを好きなのに、智さんは自分のことがそんなに好きじゃないみたい。
智は椿が膨らませた頬を潰す様に掴んでから、するすると撫でた。
ふすっと空気が抜ける音がして、唇を突き出すような形になったと思えば、その唇に智の唇が触れた。
ちゅ、と軽快なリップ音が聞こえて椿は思わず「む」と声を漏らした。
ちゅう、された。
「椿くん、晩御飯は何にしようか?明日はお休みでしょ?どこかに行こうよ。デートしよう。」
「泊まるつもりなんですか?!」
明日?椿はまさかと思って目を見開く。
「ダメかな」
「俺はいいんですけど……。」
可愛く首を傾げて、かわいくないぞ。
なんて言えない。
可愛い。
椿の胸はキュンと収縮した。
「けど?心配することは何も無いよ。」
「うーん……。」
椿も馬鹿な訳では無い。
アルファや優秀なベータが集まる学校に滑り込むほどに、頭の回転は早い。
何か変だ。
そう感じた椿は顎に手を当て黙り込んだ。
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