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ビギナー2
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(熊谷先生語り)
気分良く歩いていたら、全力疾走する神田とすれ違った。心なしか頰が上気しているように見える。俺に気付くことも無く一目散に廊下の奥へと消えて行った。
また学校でいかがわしいことをやっているのかな。片桐も物好きだ。何もわざわざ神田なんかと付き合わなくていいのに。
国語準備室に入ると片桐はデスクに座り黙々と仕事をしていた。俺は向かいの席に座り、PCの電源を入れる。コーヒーメーカーから、自分のマグカップへコーヒーを注いだ。俺にとって葵の次にコーヒーは精神安定剤だ。いい香りに心が落ち着く。
「あのさ、さっき神田とすれ違ったけど、何かあったの?」
それとなく聞いてみると、片桐はピクリともせず唸り声を上げた。
「別に……何にも。近づくと避けるし、触らせてもくれない。あいつが何を考えてるのか分からん。だけど物欲しげに見てくるんだよな。休日に誘ってもいつも断られる。俺だって悩んでるんだよ。」
悩む……片桐が恋愛で悩む。柄でもない。
「はは、嫌われてるじゃないか。お前と一緒にいると、妊娠しそうだから気が気じゃないのかも。何も神田を選ばなくてもお前なら選り取り見取りだろう。だってあの神田だぞ?面倒くさいが口癖の片桐が、わざわざやるなんて珍しい。」
マウスをカチカチとクリックしながらコーヒーを啜る。今夜は早く帰れそうだ。葵の笑顔を思い浮かべながら、ほくそ笑んだ。
葵に男同士のセックスを聞くぐらいだから、神田も真剣に悩んでいるのだろう。さしずめ、恋愛に慣れていないだけかな。初心者ならしょうがないと、片桐の話に耳を傾けた。
ふふふ、せいぜい振り回されるがよい。
「よく分かんないけれど、放っておけないんだ。案外可愛いところもあるし。一度バイト先へ見に行ってみようかな……」
「ストーカー……やめとけよ。片桐が行ったら神田は卒倒するぞ。あいつには時間が必要だと思う。草野球チームが急にプロリーグに入ったみたいなもんだ。お前が恋愛にただれ過ぎなんだよ。誰もが慣れた行為が出来る訳じゃないんだ。言い寄ればほいほい身体を差し出す訳じゃない。」
「…………そういうものなのか?もう3ヶ月も待ってる。一体いつになったら普通に話してくれるのか。流石に疲れてきた。」
真面目な顔をして信じられないと片桐は言ったので、神田が葵に恋愛相談をしていることを少しだけ話した。内容は本人のプライバシーがあるため、極力伏せた。ここで教えてしまったら俺がつまらない。
話を聞いて、無表情な片桐の眉毛がピクピクと反応した。
「そんなの、思ってることを俺に話してくれればいいのに……よく分からん。正直、今までは擦り寄ってくる女ばかりだったから、どうしていいか考えあぐねている。第三者に話して何になるんだ。自己満足で終わるじゃないか。直接聞きたい。」
恋愛に初心者な神田と、恋愛と真剣に向き合うことをしなかった片桐。
違うように見えて、近い。やり方を知らないなら、2人でやり方を決めればいいのだ。
「ある意味お前らはお似合いだよ。神田には葵が付いてるから、問題ない。焦らず、怒らず、見守るんだな。もし片桐が神田を手懐けることができたらお祝いしてやるよ。」
「………熊谷に心配されなくても自分でなんとかするからいい。でも、葵君には話を聞いてみたい。葵君の連絡先を教えてくれないか?学祭以来彼が気になってたんだ。」
片桐の目の奥が光り、獲物を狩るハンターの匂いがした。やばい。自分のものが狙われている。
いつから男に目覚めたんだよ。葵が片桐に汚されることは絶対に死んでも避けたい。
「いやいやいや。葵に聞きたいことがあったら俺を通してくれ。質問はメールで受け付けるから。片桐は神田について悩んでくれればいい。無駄な行動力は要らないから。」
「そっか……残念だ。」
片桐がすんなり引き下がったので、ホッとして仕事の続きに取り掛かった。
予定通りいつもより仕事が早く終わったので、葵の好きなドーナツを買って帰路に着く。
玄関のドアを開けると、テレビの音ではない人の話し声が聞こえた。葵とは違う別の声が楽しそうに笑っている。
玄関までのお出迎えがないので、気分を害していた。おかえりのキスがない。
「先生、おかえりなさい。」
「あ、熊谷先生、お邪魔してます。」
リビングから顔を出した葵の隣には、話題の神田が覗いていた。
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