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暗転からの脱出2
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(葵語り)
これ以上泣いたら負けだ。たかが怪我をしたくらい平気だ。涙は後で流せばいい。
問題はどうやってこの人から逃れるかだ。
暗い車内は松山さんの機嫌の良さそうな鼻歌が聞こえていた。震える手で自分の肩を抱き、目を閉じて深呼吸をする。俺は大丈夫だと言い聞かせるが、悪寒は止まらない。
なんとか隙を作れるかな。うまく逃げれたら後でゆっくり考えよう。この人は逆らうと逆上するタイプみたいだから、従うフリをするしかない。
今だけ……松山さんを好きなフリをしようと決意した。気持ち悪くて吐きそうになるけど、逃げる機会が無くなったら困る。
この人なら縛るための紐を準備しててもおかしくない。それに身体つきと力では到底敵う相手はなかった。
「着いたよ。ここが俺たちが泊まる場所だ。」
正面から見たそこは、以前先生と泊まったことのある旅館によく似ていた。
花火の見える離れの旅館は、実は先日も連れて行って貰った。思い出してまた涙が滲む。少し前まで先生が側に居たのに、今の状況を心底呪った。
「うわあ、凄い。こんな素敵なところに泊まったこと無いです。松山さんが予約してくれたんですか?ありがとうございます。」
「……あ、あぁ、うん……」
オーバー過ぎず、なおかつ仕草も大袈裟にならないよう気をつけて発言した。
車の外は山だけあって冷んやりとして寒い。
半袖だと腕が冷たく感じるな。
並んで歩き始めると、松山さんが自身の着ていたシャツを寒いからとお節介に貸してくれた。香水の匂いがこびり付いたシャツはしっとりとしていて不快だったが、何も言わずに羽織る。
「あったかい。ありがとうございます。松山さんの匂いがします。」
すんすんと匂って、とっておきの微笑みでお礼を述べた。
ふいに名前を呼ばれたので、次は何だろうと見上げると、松山さんが赤い顔をして俺に言った。
「葵君、あのさ……松山さんじゃなくて、克久って呼んでくれないかな。」
かつひさ……とかマジであり得ない要望だよな。俺が好意的なのをいいことに、絶対調子に乗っているよ、この人。
「………はい、克久さん、ですね。分かりました。」
それにしても発音しにくい名前だ。思わず舌を噛みそうになった。
「克久さん……って照れるな。葵君行こうか。お腹すいたでしょ。すぐ夕飯にしてもらおう。」
手を差し出されたので、一瞬躊躇ったのち、しぶしぶ繋いだ。
大きい手だ。こんなので掴まれたらひとたまりもない。本気になったら骨も折られそうだ。
「克久さんの手って、大きいですね。背も高くて、俺なんか潰されそう。」
思わず感想が口に出る。松山さんはすべてがデカい。だから逃げ方が決まらないのだ。以前森田に襲われた時みたいに、蹴りが通用すると助かるのに。ろくに運動もしていない俺の蹴りなんか何にも感じないだろう。
「うん。そうかな。今は葵をこうやって包んだりできるから、便利だと思うよ。潰したりしないから、安心して。葵君は抱き心地がいいね。」
立ち止まり、抱きしめられた。
ああ……もう好きなフリとか無理かもしれない。全く安心できないよ。
先生……助けて……
ぶかぶかのシャツを野暮ったく感じながら、頭は逃げることばかり考えていた。
取り敢えず、警戒は解いてくれたと思う。
後は油断させるのみだ。
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