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熊谷家の人々7にしおりをはさみました!
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熊谷家の人々7
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(葵語り)
恐る恐る病室を覗くと、4人部屋の1番右奥に先生のお母さんがいた。
午後の日差しがたっぷり入った病室は、暑いくらいに気温が上がっている。緊張しながら奥へ進むと、その人は笑顔で俺を迎えてくれた。目元は先生そっくりで、先生も和樹さんもお母さん似らしい。とても綺麗な人だった。
「母さん、調子はどう?大分顔色が良くなったね。」
お母さんは、ベッドをリクライニングして横になっている。長い髪の毛は、右肩で一つに束ねてあった。淡いピンクのパジャマを着ている。骨折した右腕も痛々しく包帯でぐるぐる巻きだ。頰に貼ったガーゼには少し血が滲んでいる。
「うん。まだ身体中が痛いかな。昨日よりは大分マシ。ごめんなさいね。本当は起きたいけど寝たままで許して。裕樹、そこの可愛い子を紹介してくれるかな。」
「あぁ……こいつは、この間話した俺の大切な人。伊藤葵君。葵、こっちおいで。」
先生に促され、俺は軽く頭を下げた。
緊張のあまり、先生の服の裾をギュッと掴むと、ポンっと背中を軽く叩かれる。
「は、始めまして。あのう……伊藤葵といいます………突然押し掛けてすみません。」
「ふふふっ。始めまして。葵君とお呼びしていいのかしら。裕樹から話を聞いて、どんな子か想像してたんだけど、凄い美人さん。よろしくね、葵君。」
春子さん……春子さんと呼んでほしいと言われたので、そう呼ぶことにする。春子さんはは、『漁師の妻』には全く見えなかった。どこか浮世離れしている雰囲気があり、育ちの良さを感じさせた。笑うとふわりと花びらが舞うようで、何より少女みたいだった。
花籠を差し出すと、とても喜んでくれた。想像通り、オレンジがよく似合う。
間も無く、先生と和樹さんは主治医から話を聞くために席を外した。
俺はベッドサイドにあった椅子に座る。
「やっと葵君に会えた。ずっと裕樹に連れて来いって言っていたのに、なかなか会わせてもらえなくて。怪我もしてみるもんね。うん……と今は何歳?教え子って聞いているけども、大学生なのかな。」
「はい。大学2年生です。20歳になりました。」
ハタチ……と呟くと春子さんは驚いた表情になった。
「若い。高校生からのお付き合いでしょう?先生が生徒に手を出したってやつかな。裕樹、なかなかやるわね。いつか葵君を熊谷の家に迎え入れたいって言ってた。私は勿論大歓迎よ。こんな可愛い子が来てくれるなんて素敵。息子が1人増えたみたい。」
春子さんの言葉に、緊張が急に解けて涙腺が緩くなってきた。ここで泣くわけにはいかないので堪える。初対面の人の前でめそめそしたら格好悪い。
「あ、あのう。俺は男です。子供も産めません………それでも構いませんか?」
春子さんの優しさに甘えてしまい、つい1番聞きたかったことを口にしていた。
いつも思っていたこと。
俺が、女に生まれたらよかったのに。
そしたら結婚をして、愛する人の子供を産むのに。俺では先生の遺伝子を残すことができない。
男同士という性別が、この国で幸せと言われる生き方を邪魔している。
分かっていても、どうしようもできない。
「確かに孫の顔が見たいかって言われたら見たいのはある。だけど、それと裕樹の幸せとは別だと思うの。裕樹があなたを選んだのなら、私はそれを受け入れるわ。息子だけど、私は彼の人生に口出しする権利はない。
あなたたちは、悪いことは何もしてないじゃない?お互いを必要としているから一緒にいる。長い人生でそこまで思える人に出会えること自体が奇跡なの。恥じることなんか何にもないから、堂々としてなさい……ね?そんな顔しないで。葵君、泣き顔も可愛いわね。食べちゃいたい。」
そんなことを言われたことが初めてで、俺は静かに泣くことしか出来なかった。
先生はこんな優しいお母さんの愛に包まれていたんだと思うと、涙が止まらなかった。
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