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誰がために 1
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夏樹先輩が好きだ。
そう自覚したのは高校1年のさいごらへんのころ。
ハキハキとしてカリスマ性があって、なんといってもあの整った顔、そして普段の強気な態度の中にある優しさに惚れた。
逆にそんな人が有名でないわけなく、生徒会や風紀の役員でもないのに絶大な人気を集めていた。
俺は気づいた瞬間に諦めた。
俺みたいな平凡な奴が告白、付き合うどころか好きになることでさえ失礼だと思ったから。
それに俺には、薫がいたから。
誰かを選んで薫が1人にならないように。
いや、違う。
自覚して、諦めたと思っても目で追い続け、きっと知らぬ間にどんどん大きくなってしまった夏樹先輩への気持ちに見知らぬふりをしていたある日。
「あさにぃ、僕夏樹のことを好きみたいなんだ」
薫から告げられたその言葉。
可愛いことで夏樹先輩とはまた違った人気を集めていた薫は俺よりも誰よりも夏樹先輩に近かった。
だから、薫からそう告げられた時も疑問はなかった。
あぁやっとか。
しか思わなかった。
同時に、もう告白してキッパリ忘れようと決心がついたのだ。
だから次の日、薫から告げられたその次の日俺は手紙で夏樹先輩を呼び出した。
「お前がアサギ?」
「はい」
みんながもう帰って薄暗くなった校舎の空き教室で。
すぐ目の前に夏樹先輩がいることが、名前を呼ばれたことが嬉しかった。
「薫の……兄、だっけ」
「えっ、あ、そうです」
絶対誰だと言われると思っていたのに、覚えていてくれたことに驚きを隠せない。
けれど次に紡がれた言葉は俺の気持ちとは正反対のものだった。
「なに、可愛い弟に近づくなって?」
「ちっ、がい、ます…」
だって彼の中には、真ん中には薫がいたから。
薫の中に夏樹先輩がいるように、夏樹先輩の中にも薫がいたのだ。
けれど俺は終わらせるためにここへ来たから、震える声を振り絞って俺は、といった。
「俺は、夏樹先輩が好きです」
「………」
「1年の時から、ずっと先輩が好きでした」
小さくため息が聞こえた。
「悪いけど、俺好きな奴いるから」
「………薫、ですか」
「まぁな。だから薫との仲応援してくれよお兄さん」
なんて人だと思った。
好きだと、あなたが好きだとたった今告白した人に、あなたは自分の恋路を応援してくれという。
「……無理です」
「あ?」
「好きな人を応援なんて、できません俺には」
そう言うと、あーと言って夏樹先輩は頭をかいた。
「今のは無神経だったな、悪い」
その言葉で、自惚れかもしれないけれど俺を少しでも気遣ったその言葉で思わず泣きそうになったのをぐっとこらえた。
「あー、ありがとう」
そう言われて、一気に緩んだ涙腺を隠したくてその教室を飛び出した。
そして廊下に出て誰にも会いたくなくて、また違う空き教室へと飛び込んだ。
「……っふぅっ、」
だめだ、泣くな。
俺は断ち切るために気持を伝えたのだ。
すっきりしたじゃないか。
「っ、うぅ、」
また、薫だ。
また薫が取っていくのだ。
いいな、薫。
なんで俺はこんな顔なの、なんで俺は薫の兄なの。
「………誰だ」
寝起きですよと言わんばかりの掠れた声でそんな声が聞こえたのはこの時だった。
空き教室、ましてやこんな時間に人がいるとは思わなかった俺は思わずその声の主を振り返った。
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