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誰がために 9にしおりをはさみました!
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誰がために 9
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それはある晴れた日の昼休みより少し前。
本来ならばみな教室で授業を受けているはずだが、1人、神凪颯佑だけは校舎の裏にある今はもう緑に色づく桜の木に寄りかかり目を閉じていた。
寝ているわけではなく、ただ目を閉じているだけ。
どこかのクラスが体育なのだろうか。
遠くから楽しげな声が聞こえてくる。
そんな中で神凪はふと最近よく一緒にいる、というか毎日弁当を作ってくれる男について考えていた。
人とつるむのはめんどくさい。
いちいち機嫌をとり一緒にいる意味がわからない。
けれど、あの男といるときは不思議とそんな感覚はなかった。
黒い髪の毛はふわふわで、アホ毛がピンっとたっている。
それが寝癖かどうかわからないけれど、彼が動くたびにゆらゆらと揺れるアホ毛を見ていると飽きないのだ。
ただたまに、そのアホ毛を無性に触りなくなってしまって困っている。
料理をするからかその手は綺麗で、時折指に絆創膏がはってある。
そしてさりげなくそれを気づかれないようにして、俺に弁当を差し出す。
豊かに変わる表情は穏やかで、どちらかというと笑顔といっても困ったような笑顔しか見たこともないような気もする。
『神凪の笑った顔、見たい、かも』
そこでふと思うのだ。
おれも、
俺もお前の心から笑った顔が見てみたい、と。
ここで薄く目を開いて大きくため息を吐いた。
これだけ考えて思うことは1つ。
「めんどくさい」
笑顔が見たいと笑顔にさせたいは違う。
そしてそれは突然。
ガサリとすぐ上の枝が揺れた。
「ニャオン」
「あ、こらまてそっち行くな馬鹿!」
聞こえたのは猫の鳴き声と最近聞き覚えのある低すぎず高すぎない、声。
バキ、と音がした瞬間俺は反射的に身を起こして翻し、その直後に落ちてきた塊を受け止めた。
「っ、」
「うぐっ」
落ちると思って強張ったのだろう彼の体を包み込み、怪我がないことを確認し安堵した。
丸まっているその腕の中には黒猫が抱かれていた。
「あっ、え、……か、神凪!?」
抱えている俺を認識したのか、ビー玉のような瞳を向けて俺の腕から飛び降りた。
「ごめん、ほんっとごめん!!危なかったろ!?
怪我ないか!?こ、骨折とか…!」
慌てて猫を抱いていない手で俺の腕やら肩やらを触り怪我がないことを確かめてきた。
逆に危なかったのはお前の方だろうが。
「何してたんだ」
「えっと、こいつが」
猫を前に出した途端、ソイツはニャンッと飛び上がりまたどこかへ駆けて行ってしまった。
それに、あ!、と大きな声を上げる。
「撫でたかったのに!」
彼はよくわからない。
初めて会ったやつに弁当を作り。
一緒に昼寝をして。
強がって。
礼儀なんかには厳しいくせに、今はそう、頭や体に葉っぱをたくさんつけて若干汚れた体操服で猫を視線で追っている彼が、俺はよくわからない。
「何やってんだ」
だから、問うのだ。
「今授業中だろ」
このわからない気持ちを、俺は一体どうしたいのか知るために、俺はこの男に問う。
このわからない気持ちを、俺は一体どうするべきなのか知るために、俺はこの男、
咲田亜沙樹に問うのだ。
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