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誰がために 11にしおりをはさみました!
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誰がために 11
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「いただきます」
「いただきます」
お互いに向かい合い、いつものように手を合わせる。
最初はめんどくさがっていた神凪もその挨拶が身についてきていて、なんだか俺まで嬉しいような気がしてくる。
今日の弁当は白ご飯に梅干し、ハンバーグと卵焼き、メインにハンバーグを入れてるから肉なし野菜炒めにブロッコリー小さなミニオムレツなどなど。
あとは神凪自身が希望した佃煮も入れてある。
あぁそれと、神凪は食べるのが早い。
一緒に食べ始めるのに、食べ終わるのは俺がまだ半分くらいしか食べてない頃。
早すぎては危ないと
「こら、もうちょっとゆっくり食べろって」
と注意すると不満げに見てくるなんていうやりとりは半分定着しつつあった。
今日は特に食べるのが早くって、いつも見ている俺でさえも驚いたほどだ。
「……」
挙句に俺が食べている間もずっとこっちも見てくるのだから、食べにくいことこの上ない。
「……な、なに」
「……いや、」
聞いてもそれだけしか返ってこないし。
なんとか沈黙の中食べ終わり、神凪に向き直ってもなお本人はまだ俺を見ていた。
「………、」
「……」
「あの、どうした神凪」
「いや、ほら、お前……」
窺うように俺の目を見ながら、その視線は開いた弁当箱ではなく隣の机に置いておいた箱にある。
あぁ。
思わず緩む口を抑えられず、緩んだ頬で神凪を見ると恥ずかしさを抑えるためなのか神凪は小さく口を突き出した。
「楽しみにしてくれてたんだ」
「お前から言ったんだろ」
「だな」
笑いながら、箱をとって中を開ける。
中に入っているのは2つのケーキ。
「苦手だったらって思って、甘さ控えめでチーズケーキにしてみたんだけど」
「甘いのも大丈夫だ」
「そう、なら次ははちみつシフォンケーキでも作ってみるか」
「……!」
バッと勢いよく顔を上げ、嬉しさを隠しきれていない顔を見て、思わず吹き出してしまった。
顔に似合わず甘いもの好きらしい。
なんというか、可愛いな。
「わかった、暇があるときは簡単なものでよければカップケーキとか作ってくるよ」
使い捨てのフォークを渡しながら、神凪の前にケーキを置いた。
同じように俺もケーキを取り、一口食べる。
「うん、上出来」
「……美味い」
少し硬かったかな、とこぼすとこのくらいで十分だろうと返ってきた。
神凪はいつもそうだ。いつも俺の作ったものは美味しいとばかり言ってくれる。
むしろマズイとかそういうことは一言だって言われたことがない。
ピーマン以外は。
それはそれで嬉しいのだが、少し不安でもある。
無理してないかなー、なんて。
神凪には最初っから気を遣わせてばかりだから、今回も、みたいな。
「これ、俺が食べてよかったのか?」
「え、なんで?」
「2つだったから」
そうだ。
いかにもさっき桜の木の下では作ってしまったから食べるかという風に言ったのだが、実際は初めから俺と神凪用に作ったつもりだった。
ケーキとか作るのはいつもは自分用の1つ。
完全に自分のため、つまるところ趣味の領域だが、誰かのために作るっていうのは正直楽しかった。
けれどそれが知られるのはなんとなく、恥ずかしくって。
「えっと、いやー、、うん。急に食べたくなってさ」
「本当は咲田薫のために作ったんじゃないのか?」
あ、そっちか。
2つ、って言ったら普通薫の方だと思うよな。
弟には過保護で有名な俺なのだから。
「薫は、逆に貰う立場だから俺がやらなくても足りてるんだよ」
「……」
つまり?と促すように見つめられる。
「だから、その、これはお前のために作った……ことになる、の、かな…」
なんだこれ。
素直にお前のためって言えばいいのに、なんでこんなに恥ずかしいんだよ。
「………そうか」
俯いてる俺にはその時神凪がどんな顔してるかなんてわからなかったけれど、その優しい声と頭に乗せられた手に顔を上げた。
「すげぇ、嬉しい」
そんな風に言われては、こちらが。
嬉しくて、照れくさくて、恥ずかしくて、これらの感情をまとめてなんて言えばいいのかなんてわからないけれど。
けれど、でも、やっぱり、
神凪は暖かい。
「人のために作るって、思ったより楽しかった」
「そうか」
「神凪、喜んでくれたみたいだからもっと、良かった」
「……あぁ」
「また、」
また作ってもいいか。
お前のために。
「楽しみだ」
皆まで言わずともわかるとばかりにそう言ってくれた神凪に、俺も笑う。
「自分専用、ってのはなんか、いいな」
ポツリと言った神凪のその言葉は俺の所まで響いてはこなかった。
だから、何を言ったのかはわからなかったけれど、笑ってもいないその顔はどこか嬉しそうで。
そんな神凪を見て、俺もふっと小さく息をこぼした。
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