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誰がために 12
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「あれ?」
いつものように、俺は昼休み2つの弁当を持って空き教室の扉を開けた。
けれどそこにきっと寝ているはずの人物ー神凪颯佑の姿はなく、ただ暖かい光が神凪の特等席を照らしていた。
俺ももう定位置になりつつある席に座り、窓に寄りかかりながら外を見た。
外で弁当を食べているもの、もう食べ終わったのかグラウンドで遊んでいるもの。
生徒に人気の若い先生は引きづられてサッカーに参加させられていた。
神凪はいつも、この景色を見ているのだろうか。
俺が来る前も、それ以外も。
俺も窓の外なんて結構見ているし、その風景もいつもの変わりないはずなのに、どこか少しだけ寂しいのは何故だろう。
視線をもどし、いつもはいるはずのその空間へと移す。
ふと、カタンッと自分が座っていた席を立ち反対側の神凪の特等席に座った。
机も椅子も、見えるものもほとんど同じなのに、なのにどこか違う。
けどその違いがわからなくて、知りたくて、いつも神凪がしているように突っ伏して目を閉じた。
締め切った室内はとても静かで、心地よい温度に保たれた空気に身をまかせる。
「……待ってても、いいよな」
もしかしたら風邪かもしれない。
家の用事とかで学校にも来ていないかもしれない。
それなら俺がここにいる意味なんてないんだろうけれど、待っててもバチは当たらないだろう。
ふわり、と空気が揺れた。
髪に感じる暖かさと、変わらず静かな教室に感じるかすかなもう1人の気配。
ゆっくりと瞼を開けて首を動かしその人物をこの目で確認して、そして笑う。
「はよ」
髪を撫でながらそう言ったのは神凪だった。
「おは、よう」
なんでかな。
昨日も会って、毎日会っているはずなのに随分久しぶりな感じがするのは、なんでなのか。
「なんで頭さわってんの」
目をこすりながらそう聞けば、
「お前だっていつもしてるだろ」
と返ってきた。
「……バレてたのか、」
俺がここへ来て神凪が寝ている時、俺はほとんどの確率でその頭を撫でる。
寝ているからそっと、起こさないようにしているつもりだったが、なるほど気づいててさせてくれてたのか。
いやこれはしょうがないとおもう。
神凪の髪が思いの外サラサラなのが悪いんだと思う。
神凪を見て、はてと首を傾げた。
いつも神凪を見るとその後ろにはロッカーがあったはず。なんで、黒板なんて……
「あ、」
そこで今自分が座っている席が神凪の席だったと気付いた。
「ごめん、席変わる?」
「なんで」
「ここ、お前の特等席だろ?」
慌てて立とうとしたけれど、その腕は神凪に掴まれていて、また座らせられた。
「お前がここに座りたいなら、いい」
いや、それじゃ俺がここに座りたくて座りたくてしょうがなかったワガママな奴みたいじゃないか。
それになんだか、
「いつもの景色じゃないから、落ち着かない」
別にそんなことはないけれど。
神凪と一緒に写るもの全てが風景だった俺にとって、神凪がいてこその風景だった俺にとって、違和感を感じるのだ。
「いいだろ別に。めんどくさいし」
「んー、そうはいっても……」
ーキーンコーンカーンコーン
聞き覚えがありすぎるその音は俺の言葉を遮り昼休みの終わりを告げた。
「やっば、俺そんなに寝てたの!?」
持ち上げた弁当箱の重さは持って来る前となんら変わりはない。
「か、神凪。昼ご飯…食べて…」
「ない」
「でしょうね!
これ、渡しとくから!空は明日でいいから食べてて!本当ごめん!」
俺は自業自得だから仕方がないと自分の分の弁当を持ち、立ち上がった。
けれどまたその手は神凪に掴まれてしまう。
「離せ神凪、遅れる!」
「いいだろ」
「いやだめよくない!」
こっちは慌てていて離そうとするも、いかんせん神凪の方が力が強いのだから結局また席へと戻り腰を落としてしまった。
ーキーンコーンカーンコーン
二回目のチャイムが鳴る。
「…………」
「サボった、な」
「神凪のせいだ……」
それは、咲田亜沙樹、生まれて初めて授業をサボった日。
神凪と、2人だけの秘密。
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