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誰がために 21にしおりをはさみました!
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誰がために 21
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ご飯を炊き忘れたという失敗あったけれど、美味しいと食べてくれたカレーは明日明後日の分までと少し多めに作っておいた。
「微妙に余ったらうどん入れたらカレーうどんできるから。あ、少し水入れてな」
「わかった」
俺が皿を洗い、神凪が乾燥機に入れるという流れ作業で思ったよりも早い時間で後片付けを終了してしまった。
「風呂」
言っている単語はそれだけなのに、入る?と自然と聞こえてくるような感じがして、なんか神凪の事わかってきたみたいで楽しい。
「うん、入らせてもらおっかな」
どうやら神凪は俺が風呂に入っていないことがだいぶ気になるらしく、頻繁に聞いてくるものだから今回は渋々と頷いた。
「服は置いとくから」
「あ、そっか。ごめんありがとうな」
「汚れは洗濯機」
「持ち帰るよ」
「一気にした方が早い」
「ん、それは一理ある」
ここは押しが強そうだと俺の方が折れてしまった。
浴槽の扉を開けると、むわっと風呂独特の湿気が襲ってきた。
ーあ、神凪の匂いだ。
シャンプー、だろうか。
いつもは微かにしか香ってこない爽やかな香りが濃く充満している。
棚を見ると、シャンプーも石鹸も1つずつしかなくて、本当必要なものしか置いてない。
風呂は溜めていいって言われたけど、もったいないから俺もシャワーでいいや。
「………はぁ」
目の前にある大きな鏡越しに自分の体を見て思わずため息を漏らした。
いや、まぁ自分の体にコンプレックスの1つや2つはあるだろうけどさ、……俺のこれはちょっと見せられない。
多分薫も知らない俺の秘密はこの先もずっと誰にも知られることはない………と思う俺が馬鹿しなければ。
わしゃわしゃと自分の髪を洗いながら、あぁまた神凪の匂いだと鼻を動かした。
匂いに包まれて、さっきの抱きしめられた時の記憶が浮かんできた。
そしてまた、トクンと脈打つその動悸の正体を俺は知っている。
あの時と同じだ、と思った。
カレーを作りながら何度考えてもそれしかない。
視線で夏希先輩を追いかけていたあの時と。
だとしたら答えはひとつ、
「俺、神凪のこと、好きなのか…」
ただ違うのは、夏希先輩の時みたいに熱くて切なくて辛いものじゃなくて、ただ暖かくて、……-そう、あれだ幸せな気持ちになる。
何が違うのだろう、夏希先輩と。
だから神凪がこの前告白を断ったって聞いて安堵したのか、と妙に納得した。
体も洗い終えて、恐る恐る外へ出てみると、タオルと着替えがしっかり用意されてあった。
タオルもその洋服も、神凪の匂いだ。
スンッとすって、緩む頬のまま小さく呟いた。
「俺も、同じ匂いがする」
俺よりも身長が高い神凪の洋服なのだから当然大きい。
手が地味に隠れてしまう袖をまくり、下のジャージは腰回りの違いだろうか、ずり落ちるのを必死に手で押さえた。
カチャリ……と、リビングの扉を開けて顔だけ出し、テレビを見ている神凪を恐る恐る呼んだ。
「か、神凪、神凪」
チラリとこちらに視線が向いたのは気づいたということであってると思う。
「その、ズボンさ、ひも付きのやつない?」
「なんで」
「ずり落っこちちゃう」
「………多分、ひも付きのやつはなかったと思う」
「…………仕方ないかぁ」
渋々とリビングに入り、ズボンを抑えながら歩いて行った。
「デカかった?」
「デカかった」
身長はそんなに変わらないのにこれは体つきの差か、そうなのか。
俺ちょっとしょげちゃうぞこれは。
「………しょげんぬ」
「………?」
「あ、いや何もない」
「ん、」
ぽふっと頭に置かれたのは神凪の手。
そのままわしゃわしゃと撫で回される。
「おいこら馬鹿にしてるだろ」
「え、いや、そういうわけじゃ…」
「こんちくしょう、デカイからって」
「ちょうどいいんだが…」
「抱きしめるのに?」
「………」
そうなんですね。
けどきっと、俺を抱きしめるのなんて、あれで最初で最後なんだろうな。
はぁ本当に、惚れるなんて思ってなかった。
けど神凪はきっと、そういう感情は一切持っていないのだろう。
怖い。
この気持ちが大きくなって、神凪がいないとダメになるような気がして、怖い。
今のうちに、そう、気づいた瞬間に。
離れたほうがいいかもしれない。
夏希さんの時とと同様に、諦めたほうがいいのかもしれない。
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