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誰がために 20
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頭からシャワーの水を浴びながら、ため息を吐いた。
まだ、残っている。
この腕で抱きしめたアイツの温度がしっかりと。
確かにいつか笑ってほしいとは思った。
『一緒にいてくれたら、嬉しい』
ただ、あんな風に照れ臭そうにはにかまれると一度離した腕をまたアイツの体に巻きつけそうになった。
なんだ、と自分で思う。
簡単な事だった。
なぜ近くにいる事を許すのか。
なぜ柄にもない事をするのか。
なぜ、抱きしめたのか。
そうだ、簡単な事だ。
「俺、咲田の事好きなのか」
他人の体温はどちらかといえば嫌いだった。
だけど、抱きしめたときに伝わってきた温度は、心地よかった。
それだけじゃない。
木から落ちたのを抱きとめた時も、頭を撫でた時も、……今日手を握られた時も。
ーアイツは柔らかいな。
あぁいや、体がとかじゃなくて、なんというか……雰囲気?
一緒にいても息苦しくないし、というより居心地がいい。
神凪から離れなれなくなる、とアイツは言った。
いやいや、
「それは俺の方だ」
いつから、だろうか。
アイツに気持ちが向いていったのは案外初めからだったんじゃないだろうか。
あの泣き顔を見た日から何かが変わったんじゃないだろうか。
あぁ本当、
「めんどくさいなぁ」
いつの日か、冬樹から恋をしろと言われたことがある。
そんな冬樹の方が、俺より先に俺の気持ちに気づいていたのかもしれない。
シャンプーを泡立てながら、考える。
じゃあこの気持ちをどうする?
気づいたところでいちいち好きにさせるなんて遠回しでめんどくさい事したくない。
むしろ黙っていた方が楽でいいんじゃないか?
それともちょうど今日は2人だから組み敷いてみるか?
いや、そうしてアイツが泣くのはだめだ。
嫌われるのも、嫌だな。
飯作ってくれなくなるかもしれないし。
アイツの作る飯は美味いから。
これは所謂、胃袋を掴まれたってやつなのか。
「あ、神凪でた?こっちもあと煮込むだけ」
タオルを首にかけリビングの扉を開けると、ソファでくつろいでいた咲田がいた。
「まだ髪濡れてんじゃん。ちゃんと拭けよー」
飯が美味くて、世話焼きでお節介。
気を遣いすぎる性格はどこか儚げで危ない。
耳だけどこか赤い気がするのは、自惚れてもいいのだろうか。
「すぐ乾くから大丈夫」
「んな事言ってみんな風邪ひくんだって」
普通ならウザイって思うんだろうけど、なんかこいつなら許せる。
「風呂」
「あ、いや俺は食べてからでいいや。
風呂入ったら眠くなっちゃうから」
ポカポカしたら眠くなるんだ、なんて子供みたいだと思った。
もういいかな、なんて言って立ち上がりキッチンに向かうが、少しして
「しまったごはん炊いてなかった!!」
なんて慌てて聞こえた声に、クッと笑いが漏れた。
「ごめん神凪、ちょっと時間かかるけどいい!?」
「あぁ」
フラれて泣いているあいつを見て、そんなにめんどくさいことをなぜするのかと思ったが、
人を好きになるというのは、案外悪くない。
少なくとも俺なら咲田を泣かせないと、そう思ったのはきっと、夏樹さんへの対抗心だと思う。
「咲田、手伝う」
「あ、いや、大丈夫。もう待つだけだから」
「抱きしめる?」
「なんでそーなんの」
くつくつと笑う咲田を見ながら、あぁ好きだな、なんて思ってしまった俺はだいぶ絆されているようだ。
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